第6話

「それで、何だよ話ってのは?俺は早く帰りてぇんだが?」道場の裏口を通り、裏庭に立つダズはアシュランへと理由を問う。


「俺、もっと強くなりてえんだ!アイツに近づけるように!今のままじゃたぶん、いや、絶対アイツの足手まといになる!だから頼む!俺の事鍛えてくれよ!」日々一人でも剣の素振り等、訓練をしていたアシュランだが、今日模擬戦をした際に改めてカイルとの実力差を痛感した。


「それにさ、オッサンってBランク冒険者なんだろ?すげえじゃん!そんな強えオッサンだったらもっと強くなる方法知ってるだろ!?なあ?」


「この村じゃ俺は多少戦闘の心得があるだけのだらしないオッサンなんだが、誰に聞いた?」この村では、ダズがBランク冒険者である事を知っているのは村長を含む僅か数人しか居ないのだが、アシュランはそれを何処かで聞いたようだ。ダズはアシュランを鋭く睨んで問い詰める。


「そ、それは」「どうせお前の親父だろ?アイツ、口が軽いからな~」ダズは一歩線を引いているのに、他人のテリトリーの内側にズケズケと踏み込んでくる馴れ馴れしい男を思い出し、ため息をつく。


「ま、そんな事はもういい。鍛えるとか言う話なんだが、結論から言うとだな~、お断りだ⭐」


「な、なんでだよ!?」ダズのような緩い男なら頼み込めば教えてくれると思っていたアシュランは想定外の事態に動揺する。


「こんな狭い村の中でお前だけ特別扱いしてみろ?唯でさえ微妙な俺の評価が地に落ちんだろ。それにそんな急がなくても大丈夫だ。まだお前は何も考えずに遊べる年なんだからよぉ。今を精一杯楽しんだら良いじゃねえか。」


「じゃあこのままカイルと差が開いたままで居ろってのかよ!そんなんじゃアイツの隣になんて一生立てねえだろうが!」


 アシュランが一番の親友であるカイルとの実力差にそこまで悩んでいたとは知らなかったダズの言葉はアシュランを刺激してしまったらしい。


「なあオッサン、俺がこの村の連中に何て思われてるか知ってるか?カイルといつも一緒にいる子、だぜ!?そんだけなんだよ!カイルはすごいだ天才だって言われてる中、俺については誰も!何も!触れやしねえ!やる事なす事全部普通だから印象に残らねえのかなあ!?それなら何も出来ねえヤツにでもなって周りから笑われてる方が印象残るか?どう思うよ!?オッサン!?」


「おいおい、落ち着けって。そんな熱くなるなよ?」思いがけず地雷を踏んでしまったダズは動揺しながらもアシュランを宥める。


「はあ~、鍛えるとかは村の連中にバレたら角が立つから無理だが、どうしても今の授業だけじゃ物足りないって言うならアドバイスしてやらんこともない」「マジ!?」そうしてダズは、アシュランの肉体や、今までの動き方から良い所や改善点を述べていく。




 ━━━━━━━


「ってな感じだ。お前は・・・まあ全部普、じゃなくて人並みに出来るから剣だけじゃなくて色々やってみると良いかもな。魔法とかは俺ぁ全然ダメだからそう言うのは教会のラギールさんに聞いてくれ。」


「ちょ~っと、いや大分確認したい所があるんだがとりあえずありがとう」ダズからのアドバイスに多少引っ掛かる部分が有ったものの概ね満足のアシュラン。そんなアシュランにダズが最後に一つ伝える。


「最後に一つ。お前は後先考えずに突っ走る癖があるから気を付けろ。だが、誰もが動けない状況で突っ込めるその勇気はいつか必ず役に立つ。強くなる為にバカになっても大バカにはなるな。どうしても大バカになりそうならそん時は頭の中に大切なヤツを浮かべてブレーキだ」


「何だよそれ?意味分かんねえ」


「意味分かんなくて良い。今はただ覚えときゃそれで良い」「ますます分かんねえ」イマイチ要領を得ないダズの最後のアドバイスに疑問はあるが、取り敢えず自分を納得させるアシュラン。


「さて、そんじゃ終わり!ガキはさっさと帰ってオネンネしな。俺は今から大人の嗜みだ~♪」


「また酒かよ・・・」「良いじゃねえか。誰にも迷惑掛かってねぇんだしよ。さ、帰った帰った!」


「分かったよ。今日はありがとな!オッサ、いや、ダズ先生!」「せっ先生!?」今まで散々言っても聞かなかったオッサン呼びが改善された事にダズは歓喜した。




 ━━━━━━


 ダズは道場から去って行くアシュランの背中を見送った後、先ほどのやり取りを思い返す。


「アシュランのヤロウ。あんだけ言ってもオッサン呼び変えなかった癖に、ちょっと優しくしたら先生とか。現金なヤツだなぁマジで」


 そう言いながら彼の頭の中にはアシュランではない違う人物が浮かんでいる。アシュランと同じように誰かの背中を追いかけ、必死に強くなろうとしていた少年を。


 ・・・


『どうだった父さん?オレ、前よりか強くなってね?』『ああ、お前はスゴい!このまま行けばいずれ俺を超えるだろう!』


『何だよその言い方。でもそう言うってことは、オレも父さんみたいな立派な冒険者に成れるってこと!?』『成れるよ、きっとな』


『っしゃあ!このまま父さんも超えてS級冒険者になってやるぜ~!』『その調子だ!』


『二人とも~ご飯よ~』


『今行く!行こうよ父さん!早く行かないとせっかく作った料理が冷めたって母さんに怒られるよ?』『ああ、そうだな。母さん怒ると怖いからな~』


『何だって~!?』『『うわああああ!?』』


 ・・・


「アシュラン見て思い出しちまうなんてな。しかし、俺も年だな~。もう、ホントに・・・」


 そう言って胸元のロケットペンダントを握り締めたダズ。二度と帰っては来ない、かつての日々に想いを馳せる彼の頬には、一筋の涙が伝っていた。

















ここまでご覧頂きありがとうございます。次回から少し物語が動き出します。よろしくお願いします。

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