第5話

「今日こそやってやる!」


「今日も負けないよ」


「先に一撃、決定打を与えた方が勝者とする。それでは、始め!」


 アシュランとカイル、二人が互いに剣を持ち、向かい合っている。アシュランは緊張しているが、カイルにはどこか余裕が感じられる。


「先手必勝!」


 先に動いたのはアシュラン。前に踏み込み、相手の頭目掛けて剣を縦に振り下ろした。カイルはそれを頭の上で受け止め、相手の剣を滑らすようにして逸らした。


 カイルによって力を受け流された事により、アシュランは前に向かってよろけてしまった。アシュランが態勢を戻す余裕があるはずもなく、カイルから繰り出される攻撃に防戦一方となってしまった。


「あ」


「隙あり」


 アシュランが疲弊し、連撃を防いでいた腕が下がってしまった所を逃さず、カイルがアシュランの頭に剣を振り下ろした。


「い゛て゛っ!?」


「そこまで!勝者、カイル!」


「やっぱカイルつえーな、よし!このライノス様とタッグを組む権利をやろう!」「よっしゃ!クッキー貰い!」「アシュラン何やってんだよー!?今日はワンチャン狙ってお前にお菓子賭けちゃったよ!?大穴狙いしなきゃ良かった!」「キャー!カイル君かっこいいー!」「でっかいたんこぶ、痛そー」


 周りで見ていた子どもたちが盛り上がる中、黒髪の少年と先ほどカイルと呼ばれた少年は互いに握手を交わし、健闘を称え合った。


「ちくしょー!また負けた!しかも今回はソッコーでやられちまった!」


「お疲れ、最初の踏み込みが思ったより早くて驚いたよ。防御も上手くなってたし、あんなに防がれると思わなかった。アシュラン、強くなったんじゃない?」


「お世辞どーも。お前に言われても全然嬉しくねえわ」


「あはは、ひどいな。本当の事なのに。」


「お前が強すぎて何やっても成長してる気がしねんえんだよ!」


「ありがと」「褒めてねえよ!?皮肉って知ってるか!?」


 健闘を称え合う?二人に先ほどの試合の審判をしていたダズが歩み寄る。


「お疲れさん二人ともぉ。いい動きだったじゃねえか。アシュランは結構カイルの攻撃防げるようになってたし、カイルは相変わらず流石だなって感じ?おじさん、二人がすくすく育ってくれて嬉しいよぉ」


「ダズさん審判ありがとうございます」「オッサンは誰目線なんだよ?」


「さすがに昔から通ってたお前らにはどうしても親みたいか目線になっちまうだろうよ」「そう言うもんか?」


「そう言うもんよ。よし、それじゃあ反省会するぞ?まずカイル。流石の強さだな。剣術に関しては俺から教える事はもう無い!スゴい!だがいっつも受けに回るのは止めといた方が良い。たまには自分から攻めてみろ。もしかして周りに遠慮してんのか?」


「別にそういうそういうわけでは・・・まあはい、分かりました。自分からも攻めるようにしていきます。」


「よし。次アシュラン!お前は素直過ぎる!まずバカ正直に突っ込むのを止めろ!もう少し考えてから動け!あんなんじゃ何しようとしてるかバレバレなんだよ!あれじゃあカイルじゃなくても簡単に避けるか防ぐかできるわ!」「ぐっ」


「さっきのお前の行動は勇気じゃなくて無謀だ!本番じゃ耐えてから動くとかなかなかできるもんじゃない。ちっとばかし慎重に動くんだ」


「・・・わーったよ」


 しばらく三人で反省会をした後、ダズが次の模擬戦の審判をするために移動し始めたタイミングで、アシュランが近づき、「悪いオッサン、授業終わった後、こっち来てくんね?」そう言って訓練場の裏口を指し示す。


「どうしたのアシュラン?」


「・・・別になんもねえよ。ちょっと戦い方について聞きたいだけだ」


「そっか。じゃあ僕たちも移動しよう」


「おう」


「おいアシュラン!まだギリお兄さんで通るだろ!?オッサンはやめろって言っ「それは無理だろ!あ~!とりあえず先行っとくわ!」・・・チッ、おーい!次やるぞー?順番のヤツは前に出ろ!」


 授業が終わり、子どもたちが全員訓練場から出て行った事を見届けたダズは、入り口の反対にある裏口へと歩きながら、先程、自らを呼んだ時に見せたアシュランの暗い顔を思い出していた。


「はあ~何だよアシュラン、改まって話とかよぉ。いつも俺の事なめ腐ってるガキとシラフで真剣な話とかイヤな予感しかしねぇよ~早く終わらせて酒飲みてぇ~」


 彼の名はダズ。立派な志をもった酒好きの紛うことなきオジサンである。

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