ヒイラギ皇国建国記～その男の娘は革命軍を勝利へと導く～

第一章 不死身の美少女王弟、革命軍と出会う

第1話 王弟殿下は夢で故人のメッセージを受け取る①

「この者は穢らわしい蛮族の国・ミクロスの王族である！　侵略者であるミクロス王の血を引く穢れ多いこの生贄を天に捧げ、我が軍の勝利を祈る！」

　身体が十字の磔台に縛られている。一糸も纏（まと）っていない身体は大衆の視線に晒され、目の前には鋭い槍を構えた兵士の姿がある。兵士は何の感情も籠（こも）らない表情で僕を見つめている。

　その後ろで、少年と青年の境目にいるような、年若い男が残忍な笑みを浮かべ、大衆を煽る。この国の王太子である。

　王太子に煽られた大衆が、「侵略者を殺せ！」と、狂喜に満ちた歓声をあげる。

　この者、生贄、と呼ばれているのは、磔台に縛られている僕だ。いつもと変わらない朝を迎え、いつもと同じように友と釣りに行く約束をしていた。それなのに、どうして――。

　突然現れた兵士に縛られ、なにがなんだかわからないまま、磔に縛られている。槍の鋭い切っ先が向けられて、カタカタと身体が震える。

　死にたくない。死にたくない。まだ死にたくない。怖い。誰か助けて。首を振り、震える声で訴えるが、聴取は「殺せ！」の大合唱で僕の声はかき消される。

「オリオンが何をしたっていうんだ！　オリオンを離せッ！　オリオン！！」

僕の名を必死に呼ぶ友の叫び声が聞こえる。兵士達に取り押さえられながらも必死に髪を振り乱し、僕を離せと叫ぶ友の声が。

――ナルメキアには逆らってはいけないよ。あの国は言いがかりをつけて攻めてくるから。

　父の言葉を思い出す。そうか。穢らわしい蛮族の国……侵略者……言いがかりだ。絶対に言いがかりだ。ミクロスがそんなことをするわけがない。言いがかりで僕は殺される。

「オリオンーーーーッ！　嫌だ！　やめろぉぉぉぉぉ！」

　友の絶叫が耳に痛いほど突きささる。槍の鋭い切っ先が身体を貫く。身体中に次々と耐えられない激痛が走り、悲鳴をあげた。身体が血に濡れていく。

　次第に力が抜け、意識が磔台から浮き、僕は小さな丸い光になった。

　友は、先ほど聴衆を煽った王太子に髪を引っ張られ、頬を殴りつけられていた。

「うるさいぞ、平民王子。下賤な血は争えないな。野蛮なミクロスなんかとつるみやがって」

　王太子は虫けらを見るような目で、友を見下ろし嘲笑った。友が倒れて動かなくなるまで暴行を続け、最後は唾を吐き捨て、上機嫌でその場を去る。

　友は頬を真っ赤に腫らしながら、磔台に残された僕の抜け殻を見上げる。大量の涙を浮かべながらも、蒼い瞳には紛れもない殺意が生まれている。

「…………ろしてやる」

　押し殺した声は誰の耳にも届かない。

「俺がお前らを…………ろしてやる」

　光になった僕は、殺意の輝きに満ちた友の瞳へと吸い込まれる。

――ダメだよ、アイゼル。君にはまだ力がない。拳を振り上げるのはやめるんだ。

僕は友――アイゼルの中に入り、アイゼルの心に呼び掛けた。僕の二の舞にしてはいけない。

――「殺してやる」なんて言っちゃいけない。今は従順な王子を装うんだ。僕が君を守る。だから。

――君がこのナルメキアという国を、地図上から消滅させるんだ。