第114話

数時間前に遡る。

あいつが部屋を出ていってから少しした頃に車のエンジン音がして、だんだんと遠ざかっていった。


もうあいつはここにいない。やるなら今しかないんだ、と武者震いする自分の身体を抱きしめる。そして涼から与えられた武器を持った。


事前に私が持っている服の中で一番暖かそうな服を身につけた。靴も欲しいところだけど、そんなことは言っていられない。



……覚悟を決めた私は、部屋のドアをノックした。



数秒後に外側から顔を覗かせる男。

「どうしました?」


『あの、秘密で頼みたいことがあるんです……耳を貸して頂けませんか?』


上目遣いで見つめながら、甘い声を出す。仄かに顔を染めた男は耳を近づけてきた。……今だ。


涼に教わったように首元にスタンガンを突きつける。その男は一瞬にして意識を失った。


…よし、第一段階は成功!見張りが一人でよかった…

そしてその男の腕を肩に回し、玄関への長い長い廊下を進んでいく。…それにしても重い。

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