第4話

あの後、スティファさんから男女の営みについて詳細を聞いた。

人間の体のメカニズムと共に論理的に淡々と話すので、変ないやらしさは全くなく聞くことができた。


あの時はルーカス様が終始怖かったのと、下半身が痛くて苦しかった事くらいしか覚えていなかった。

あの後は正直詳細には思い出せる精神状態では無かった。

今はもう思い出せないが酷い嫌悪感だけは感じている。



とりあえず、ルーカス様とちゃんと向き合って話ができるようにならなければと思う。

次の休暇の時に庭での散歩にでもお誘いしようか・・

庭ならば人の目もあって良いかもしれない。


「ティナさん、今日はお休みですか?」

今日は行商が来る日だったので、髪を下ろし、私服のワンピースを着て広間で商品を見ながら唸っていると行商に来たサントさんがにっこりと笑って話しかけてくれた。

サントさんはお歳を召している方なので、話しやすい。

「はい。今日はお休みをいただいています。」

「そういう格好をしていると貴族のご令嬢だと言われても分からないな」

「そうですか?」

今日着ているワンピースを見る。

「この間孫娘が無理矢理すすめて買ってくれたやつだろう?」

「そうです!メイドの仲間からも似合うって言ってもらいました」

前に行商に来てくださった時に、サントさんの孫のサニーさんがこれ絶対似合うと思って持って来たと力説するので、買わせてもらった。


紺色で控えめな色にひざ丈、ハイウエストに切り替えがついていて金色のボタンがアクセントになっている上品なワンピースで着心地も良い。



「今日サニーさんは?」

「来てるけど・・あいつはどこに行ったんだか。また何か無理矢理買わされる前に欲しいもん買っていきな」

呆れ切った口調で言うサントさんに思わず笑ってしまった。


「今日って小説はありますか?」

「新刊は無いねえ」

「そうですか」

「小説なら街の本屋が1番品揃えがあるな。欲しい本が決まってるなら今度買い付けて持ってくるよ」

「大丈夫です。新刊あったら見たかったなってくらいなので」

今回は特に欲しい物は無さそうだ。


今日は特に予定もないので街の本屋にでも行ってみようか。


街には馬車で30分ほどで行ける距離にある。

今日は休暇が被っているメイドはいないので、誰も一緒には来てくれない。

「そろそろ1人でも行けるかもしれないなぁ・・」

「ティナちゃん!!」

また考え事をしながら歩いているとサニーさんに手を握られた。

「サニーさん、お久しぶりです」

「久しぶり!そのワンピースめっちゃ似合ってる!最高!」

「ありがとうございます」

「ねぇねぇそろそろメイクしたいなぁとか思わない?思うでしょ!」

「いえ・・特には・・」

「ちょっとお試しでメイクさせて!」


相変わらず話を聞かないティナさんは、最近コスメに力を入れているらしく、気になるコスメでメイクをしてあげるブースを作ったんだとか。

「別にコスメ買わなくたっていいから!良いものを使ってみてほしいってだけだから」


半ば強制的に鏡の前に座らされて、メイクを施される。

「うーん・・自分のセンスの良さに惚れ惚れする」

10分ほどで完了したメイクは薄づきで、私でも抵抗のない物だった。

「休暇なんでしょ?せっかくならどっかでかけてきな!」

「はい・・ありがとうございます」


嫁ぐ予定のない私が持っていても仕方ないのでコスメは買わずに広間を出た。


やはり街に行ってみようかな。

最近好きになった作家の本をいくつか買いたい。


唯一の趣味である読書・・文字が読めない使用人も多い中読書を楽しめているのはルーカス様のおかげだ。

あの事件があるまで、本当にルーカス様は良くしてくれていた。

文字の読み方や書き方を教えてくれたり、当時は通いで行っていたアカデミーで受けた授業の興味深かったところを毎日話してくれた。

誕生日には街で流行りのお菓子や本を買ってきてくれたこともある。

ルーカス様とお話しすることは私の楽しみのひとつで、今それがないことに寂しさも感じている。



「取りに来させろ!あいつのために魔石の無駄遣いをしなくてもよろしい!」

「ですが、当主様これがないと坊ちゃんは留年になってしまいます」

「自業自得だ!留年になったら授業料はあいつの小遣いからさっぴく!」

庭を歩いていると当主様が執事のトムに向かって声を荒げている。

荒げた拍子に当主様がペンを落とした。


「当主様落としましたよ」

ペンを拾い、差し出すと当主様が目を丸くしている。

「当主様?」

「あぁ、ティナか。今日は休暇か?」

「はい。休暇をいただきありがとうございます」

「いや、当然だ。ゆっくり休みなさい」

「ありがとうございます。どうかなさったのですか?」

「ルーカスのバカがアカデミーに提出する課題をそっくりそのまま屋敷に置いていったんだ」

トムが苦笑いで鞄を持ち上げる。

「郵送の魔石だって消耗品なんだぞ」

魔石は使うにつれてただの石に変わっていく。

書類や荷物を正しく安全に一瞬で送ってくれる魔石はとても貴重で消耗も激しい。


「私がお届けしましょうか。これから街の本屋に行こうかと思っていたところなんです」

街からアカデミーまでは馬車で5分だ。

「大丈夫なのか?ルーカスだぞ」

「荷物をお渡しするくらいなら。少しずつ慣れなくはいけませんし」

当主様はピンときた顔をする。

「そうか、ではお願いしよう。屋敷を出る時はこれを持って出かけなさい」

緑色の魔石を渡される。

「これは?」

「守りと追跡の魔石だ。悲鳴をあげたり「やめて」と言えば相手を弾いてくれて、持っている者の居場所も分かる。街の治安が最近きな臭くなっていてな、使用人が屋敷の外に出るときに渡そうと思っていくつか用意したんだ。管理はメイド長にしてもらうから屋敷に戻ったらそれをメイド長に渡してくれ」

「承知しました。ありがとうございます」



メイド長であるスティファさんに外出届を出し、心配されたが魔石のことを話すと街へ送り出してくれた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る