第3話
ルーカス様が休暇を終えてアカデミーへと戻ってから3日後、当主様に呼ばれた。
スティファさんにいつでも良いので当主様とお話ししたいとお伺いをたてていたので思ったよりも早く当主様とお話しできることになってホッとする。
隠れ身の魔石も意味がないのであれば返さないといけない。
両手に握りしめて当主様の部屋へと向かい扉をノックする。
「当主様、ティナです。」
部屋の中でガタン!と大きな音がなって慌てている様子がわかる。
なにやらスティファさんの声も聞こえてくる。
「あの・・大丈夫ですか?」
部屋の中にいたスティファさんが出迎えてくれて、部屋に入ると土下座をした当主様がいた。
「え!や、やめてください当主様!」
こちらも床に正座をするとどうにか土下座をやめさせようと当主様の近くでワタワタと手を動かす。
「土下座するしか脳がないのかこの親子は」
スティファさんが吐き捨てる様にボソッというと当主様が顔を上げる。
「返す言葉もございません」
顔を歪めているが、端正な顔立ちには変わりなかった。
ルーカス様は当主様よりも奥様の要素の方が強く、あまり当主様とは似ていない。
しかし、煌びやかな金の髪がそっくりだ。
「滅相もございません。最終日には見つかってしまいましたが、私が気を抜いていたせいでもあります」
そういって魔石を差し出すと当主様とスティファさんが顔を見合わせる。
「あぁ、うん。そうか、そうだよな。これも見破ったんだよなアイツは」
「本当にどうしようもない」
「あぁ、あぁ。うん」
当主様が焦っている。すっかり忘れていたとでも言いたいかの様に。
ソファに座る様に促され、目の前にはスティファさんが入れたお茶とお茶菓子が目の前に置かれる。
「え、ここまでしていただくことの程では」
「いいんだ。これからいうことは本当に人道に反することだと思うから少しでも気持ちを落ち着かせるためのものだ」
ソファに座らずに部屋中を行ったり来たりと忙しない。
「いいか・・言うぞ」
「はい」
「いいか・・今から俺は言うんだ」
「えぇ、はい」
「よし・・ちょっと待ってくれ」
お茶を飲む様促されたので、一口いただく。
スティファさんのいれるお茶は本当に美味しい。
「君はルーカスと夜伽をする想像ができるだろうか」
持っていた茶器を落としてしまう。
「きゃあ!ごめんなさい」
「良いんだ無理もない。気にしないでくれ」
スティファさんがサッときて片付けてくれる。
「あのお方と・・そんな」
「人の道に外れたことを言っているのはわかっている。わかっているんだ」
頭を抱える当主様の言うことには、どんなに良い縁談を見せても断られ、無理に進めようとしたら養子縁組に良さそうな子息を紹介され、結婚はしない。無理に縁談を進めるなら公爵家を継がないと宣言をされた。
この長期休暇の期間ルーカス様と今後のことを腰を据えて話しをしてみると、
結婚をしたとしても子ができない。自分は不能だと話したそうだ。
白い結婚を余儀なくされ、公爵家の嫁として義務を果たせなど、どの令嬢にも言えない。
これがルーカス様の主張だった。
当主様としてはルーカス様は随分と派手に遊んでいると情報が入ってきているのに、不能だなんてそんなはずはない。
ティナと結婚するための嘘だと思って調査をしたら本当に不能であることが判明した。
ルーカス様のお相手になった方々から話を聞いてもそういった行為をルーカス様とはしていないとのことだった。
それを治療できないかと医師に相談したら、ルーカス様の身体は健康そのものなので気持ちの問題ではないか。
思い人がいるならば思い人に自信をつけてもらうのが有効と言われたらしい。
「・・恐れながら当主様、あのお方は魔石の解析ができる方ですので、そう言った情報も操作しているのではありませんか?」
俺は嘘つきだからと笑うルーカス様を思い出す。
「ないな。確かな筋からの情報だから」
「お薬なんかは・・」
「薬の類はあいつも試している」
「薬もダメなのに・・その・・私相手でも有能?になるかどうか」
「ふっ」
スティファさんが笑う。
「失礼いたしました」
「それを確かめさせて欲しい」
「さっきも申しましたが、養子縁組もお考えください。今適任者がいなくてもルーカス様が爵位を継いだのちに養子縁組を組んだって良いのです」
スティファさんが、当主様に水を渡しながら諭すように言う。
「そうなんだがな・・」
ルーカス様は一人っ子だ。
当主様は真面目で奥様一筋であったため、妾もいない。
血筋を重んじる国だから、養子縁組をそう簡単に受け入れられないのは当然だろうと思う。
「ティナさんはとても辛い思いをされました。女性としての未来を閉ざされたと言っても過言ではありません」
「わかっている。だから一生を保証するつもりでいる・・が、ルーカスも一生君について回る。どうにか君を諦めて欲しいと色々と手を打ったがすべてダメだった・・ならばいっそ」
私の顔を見てから俯いて黙ってしまった。
あの事件においてはルーカス様も被害者だ。
それは頭ではわかっているけれど・・
「あの・・私がお相手でも不能かどうかの確認って夜伽をするという事ですよね」
「いや、最後までする必要はない。奴のあれが立つかどうかだけでも分かれば治療方も見つかるかもしれない」
「あれが立つ?」
「坊ちゃんは立ちもしないんですか」
「あぁ、いくら妖艶な女性が近づいてもぴくりとも動かなかったらしい」
「坊ちゃん・・」
スティファさんが口を両手でおさえる。
「なんのお話を・・?」
「後でわたくしが教えますが服を脱がずとも分かります」
いつの間にか表情も元に戻ったスティファさんがお茶を入れ直してくれている。
「君でも不能なら私も諦めて養子縁組を考える」
「先日あの方の手を握りましたが震えは出ませんでした。服を脱がずとも分かることであれば・・でもすぐの確認は難しいので、お時間がかかってしまうかもしれません。」
「あぁ!あぁ!時間はたっぷりある!頼まれてくれるか!!!」
こんなに嬉しそうな当主様はじめてみた。
当主様には大変お世話になっている。
少しでも恩返しができるなら・・いや、できるのだろうか。
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