第12話 誘拐犯
ーーーー少し前。
「いや、あの。ここまでする必要があるんでしょうか?」
先の話で人質になるという話はあった。極力穏便に済むのならそれで文句はないのだが、なんでかいま偶々あった荒縄で僕は文字通りぐるぐる巻きにさされていた。しかもしっかり首元から足首まで綺麗に巻かれた蓑虫状態。
「何事もシチュエーションって大事だよ。一応私推定凶悪犯だからね。そ、それに似合った…………」
とか最後まで言い切れず顔をそむけて笑いを堪える博士。他の三人も似たようなものだった。
完全に遊んでるよ、この人達。そもそも拘束するだけなら先の結束バンドで十分だ。それを態々荒縄で縛るんだから無駄以外なんでもない。てか。
「これで県警とかCIAに攻撃されてうっかり死んだら一生化けて出てやりますからね」
手足も動かないのだから当然逃げれない。出来ても波上に動くか、腹這か。いいとこというか文字通りの巻藁である。ただの的。
「いやぁ、前者はないでしょ。君んところの警察はよっぽどの事がないと発砲しないでしょ? 後者もそう下手はうたないさ、多分」
その多分が信用出来ないのだが。
「ま、いざとなったらこっちで引き千切るさ。幸いにそれくらいだったらノイジーでも出来る」
任せろ大将、なんて言ってるがいちいちそんな事をしていて捕まらないんだろうか? というふつうの疑問は今あの人達の中にはなさそうだった。
◇
で、現在。
ついでの如くタオルで猿轡をされ、さらに何故かノイジーに掲げられている僕を見て県警の皆々様方は困惑している。
や、凶悪犯に誘拐されて人質にされているのは由々しき事態ではあるのだが、まさか戦利品みたいに掲げられているなんて思いもしないだろう。僕もそう思っている。
よくよくみると警官に混じってちらほらガタイのいいアメリカ人も見えた。あれがCIAだろう。その彼らもぽかんとしている。彼らとて処理しきれないらしい。慣れてたらそれはそれで困る。その中に頭を抱えた男がいた。おそらく、内情を知っている人物だろう、可哀想に。一人狂人の中で理性を保っている、そんな悲哀を感じた。
「あれ、少年? 私の日本語何か間違っていたかい?」
顔をこちらに向けずに博士は聞いた。
「おふぉあふ、ふぉのふぉうふぇいふぁしょひへひないのふぁふぉ」
「少年、全ッ然わからん」
僕の言葉を聞いて博士はそんな事を言った。
「博士。裕志君は多分"おそらく、この光景が処理出来ないのでは"と言ってるのでは?」
「少年、言葉はしっかり話そう」
誰の所為だ、と。思いついたように"捕まっているのに自由に喋れるのはどうだろう? そうだ、口をタオルで塞ごう"なんて急に縛りだしたくせに。
「それで、少年の身柄は確認できたかい? 横水誠一巡査長」
呆けている県警代表横水巡査長に博士は言った。彼はハッとして手に持っていた無線機でこちらに語り掛けてきた。
「…………あー、協力感謝する。それで、要求とは何だ」
「まぁ、シンプルな話国外への脱出手段だよね。お金は持っているんだ。問題は出金出来ないだけで。その御蔭で旅券も買えないからね、どっかの誰かささん達の所為でね!」
誰かさんの所為でね! あえて博士はその部分を強調した。
「そちらの要求は理解した。しかし、我々だけでは判断出来ない。一度本部と協議をさせて欲しい」
「当然の話だね。早く話し合って早く回答を頂戴ね」
急いで、と博士は付け加える。聞いた横水巡査長は一瞬博士を睨みつけた。
「さて、どう動くかな」
顎に手を当て博士は言った。
「駄目ですかねぇ?」
シャッターを持ったままのプロトが言う。何かあった時に盾になるからシャッターは持ったままで、という話でその姿勢を維持してるが、シャッターとしての機能はしなさそうだ。
「従来言われているテロに屈しない、という立場で考えるなら特殊部隊とか連れてくるだろうけど、後ろで連中が動いているからね。あっさり飛行機レンタルされるかも」
楽観的に考えて、と博士は続けた。
「大将、駄目だった場合は?」
ノイジーが聞く。
「勿論、反転攻勢」
未だ物陰のヒカリが言った。
「一応、人命もあるからね、穏便に考えるよ」
博士が肩を竦めた。聞いたヒカリはシラけた表情をしていた。どんだけ暴れたいんだ。
「それはそれとして、この入り口の前のオブジェについて誰か把握している人いる?」
ふと、博士が真正面を見据えたまま言った。見ると入口付近にシートが被さった謎の物体が4つ程設定されていた。
話しぶりからここをアジトに構えた時には存在していなかったように聞こえる。
「私が知るわけないじゃない」
ヒカリが興味なさそうに言った。
「博士じゃないんです?」
「いやまさか。知るわけないでしょ」
プロトに聞かれた博士が肩を竦めた。
「いやぁな予感するぜ、大将」
真下のノイジーがこぼしたと同時に彼の腕がうねり出した。
「…………おいおい、この駆動音は!」
彼のその言葉と同時にシートが立ち上がる。直後、包まれた何がシートを自ら剥ぎ取った。現れたのはSF作品で見るような、身体にフィットしている宇宙服を着たような人の姿だった。
「T-ARMY!? そうか、さっきのドーベルマンの駆動系を変更したのはこちらにさとられないようにするために!」
馬鹿じゃないの!? 博士が驚いていた。ほら見たことが、とプロトが叫んだ。
会話から察するにアメリカ軍隊の虎の子兵器である"T"シリーズ。実践配備はまだされてないそれをこの場で投入してきた。博士の言葉から強力なロボットであることに違いはないだろうが、にしたって随分と都合の悪いタイミングで稼働させるものだ。
謎のロボット出現に警官隊にも一斉に動揺が走った。白々しことに、CIAも知らぬ顔だった。
「不味いですよ、囲まれてます!」
しかし、不意打ちとしてはかなり有効に機能している。言ったプロトが左右を見て同様していた。それと同時にヒカリが身を低く沈めたが。
「いや、でもこっちを見てはいない?」
そういって彼女はすぐにでも動き出しそうな姿勢のまま止まっていた。言葉通り4機のT-ARMYは真正面を向いたまま直立していた。そして、そのまま真っ直ぐに歩き出す。
「あらら、向こうに歩いていっちゃいますよ?」
コチラを一瞥もせずに真正面に向かって行くT-ARMYを見て、落ち着いたプロトが言った。
「と、いうかアレ"ミニガン"じゃない?」
警戒姿勢のまま眉をひそめ、動くT-ARMYを見てヒカリは言う。よくよく4機を見ると、確かに手に何かを持っていた。僕も見たことがある。ゲームや映画でヘリや戦闘機に付いてるガトリング砲だ。
「…………あー、私、連中が何したいんだか分かっちゃった」
心底呆れたように博士が言った。彼が言葉を発したと同時に、4機が一斉にガトリング砲を構えた。
「「「「あ。」」」」
博士達のそんな間抜けた言葉と同時に、火線が開いた。
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