第10話 襲撃

「ちょっと待って、ばれたってどういうことです?」


 みんなが慌ただしく動いている中、一人置いてけぼりの僕は博士に聞いた。


「"魔法使い"が、盗み見盗み聞きするのを嫌ったからこの建物の内装に特殊なパネル貼ったんだよね。簡単に作れる大体の物質を妨げるられる素材でできた奴。そいつの所為。ほら、君のスマホも圏外」


 そういって博士はポケットから僕のスマホを取り出した。反射的に自分のポケットを探したが、持っていなかった事に今気づいた。


「なんで持ってるんです?」


「基本だろ? 忠告無視されて電話掛けられてバレたら洒落にならない」


 受け取ったスマホの電源を入れた。


『裕志。アナタの言うことが正しかったようですね』


 再起動と同時に"ヘレナ"から応答が来た。


「まぁ、凄いコンピューターにいじられたらそうもなるよね」


「凄いコンピューターって君。まぁ、間違いじゃないけど」


 聞いた博士が肩を竦めた。


「外と連絡は?」


『圏外ですね。その方達は?』


 報告と確認を行うヘレナ。


「すごく変わった博士とそのロボット達」


 僕はそう答えた。


「裕志君、オブラートに包みましたね」


「どういう意味かな、プロト?」


 いえ別に、とプロトは顔をそらした。


「で、そのパネルがなんだって見つかる原因に?」


「簡単な話さ。この素材、電波を通さず赤外線センサーで可視化出来ない、その他諸々の機能があるのよ。で、だ。こいつのおかげでGPSすら探知出来なくなっているんだが、少年、ここは何処だい?」


 僕は少し考えて。


「日本?」


 そう答えた。


「範囲広くない? もうちょっと狭めて」


「T県の…………片田舎?」


 そう! と博士が手を叩いて僕を指さした。


『つまり、アナタ。"すごく変わった博士"はこう仰りたい』


「えーと、"ヘレナ"君? その呼び方やめない? 一応私、ハーヴェイって名前があるんだけど。ちなみにヘレナって人造人間?」


『失礼しました、ハーヴェイ博士。検索履歴に貴方様に関する情報が存在しておりませんでしたので。再度WEBに接続し再検索をかける必要があります。その認識で違いありません』


「いいよ、どうせ引っ掛からないし。それより持ち主より察しのいいAI君はいったいどういう結論に至ったのかい?」


『つまり。この地域でおおよその物質が遮断される建造物は不自然である、という点で発見に到った、そう仰りたいのかと思われます』


 大正解、と博士。


 なるほど、確かにその通りだ。建築基準法にもそんな記載はないだろうし、電波とか赤外線とかはいらない家を趣味で建てるような人もいない。


「突貫作業だったからねぇ。とりあえず傍受されないの一点でのみ仕掛けたから、そりゃそうなる」


 そういって博士は肩を竦めた。


『ところで裕志。今、一体どういう状況なんです?』


 手に持っていたスマホから“ヘレナ”が聞いてきた。


「訳あってCIAに襲撃される直前」


『訳があっても普通CIAには襲撃されないと思われるのですが、どんな状況でしょうか?』


「漫談中悪いがお嬢さんたち。お客さんのお出ましだ」


 そういってノイジーが裏口らしき方角を指した。


 僕たちはそっちを見る。裏口から現れたのは犬型のロボットだった。


「"MD-11,ドーベルマン"。こりもせずに」


 ハーヴェイ博士が呆れたように呟いた。


「またぞろぞろと。数ばっか揃えて」

 

 鬱陶しそうにヒカリが言った。


「HEY、HEY、大将。もう一個の駆動音も連中からしやがるぜ?」


「…………? "T"シリーズの駆動系を"ドーベルマン"に? 理解できないんだけど。それ、意味ある?」


 不思議そうに言う博士。俺に聞かれたって知らねぇよ、とノイジーが腕をぐにゃぐにゃと動かした。


 集まってきた犬型ロボット“ドーベルマン”は二桁に近い数はいるだろうか。室内に入ってきた連中は僕らを囲むように展開しだした。


 あっという間に円状に囲うロボット達。 連中はこちらを見たまま止まっている。


「…………攻撃してこない?」


 なんかすぐ襲ってくるイメージがあったがそうでもないらしい。


「様子見? なんか作戦でもあるのかしら?」


「さぁ。まぁ、なんか企んではいるでしょ」


 博士とヒカリはそんなやり取りをしている。

 

 と、そこでドーベルマンが一斉に遠吠えをした。


「よくできてるじゃないか」


「どうせスピーカーでしょうよ。というか、ハーヴェイ。あなたもかかわっているのでは?」


「アレは私作成じゃないよ。元々四足ロボットはみんな作ってたろ」


 趣味じゃない、なんていう博士。それを聞いてヒカリが呆れたような顔をした。


「…………クソ。頭の中で弦楽器の大演奏会が始まった」


 不意にプロトが言った。振り返ってみれば、彼は頭を押さえていた。


「頭痛とかあるの!?」


「裕志君。それロボットに対する差別発言」


「やっぱりboyは差別主義者だったのか!」


 辛そうな表情と怒りをあらわにしているのか、うねうねと腕をくゆらせ抗議するプロトとノイジー。


「いや、ごめん。でも、なんだってそんな機能を?」


「正確には痛みではなく違和感なんですよね。私、痛覚ないんで。ただ、ザリザリテレビの砂嵐のような感じなんですが、というか今テレビって砂嵐あります?」


「…………砂嵐?」


 オォウ、ジェネレーションギャップ、と以外に余裕そうなプロト。


「自閉モードに。…………ああ、楽になった。博士。あいつらすっごい電波妨害装置積んでますよ」


「なんだって?」


 聴いた博士が心底不思議そうに言った。


「通信を遮断? いや、セルフで通信妨害してるのが我々なわけだし。無駄なことを。何を考えている、CIA」


「なんだっていい」


 博士がブツブツと考えているところにドーベルマン達の目の前に腕を組んで佇んだヒカリが言った。


「とにかくあいつらぶっ壊せばいいわけでしょ?」


 こちらを首だけ振り返り、見て笑う。美少女なのに男らしい。というか、本気で猪だなぁ。


 彼女は立ち上がってそのまま走り出す直前の前傾姿勢をとった。次の瞬間、弾けた。


「…………は?」


 一瞬で視界から消えた彼女に驚いた。次に気付いた時には彼女はすでにドーベルマンの眼前にいた。


「もらったぁっ!」

 

 突き刺さるような跳び蹴り。が、ドーベルマンが紙一重で身を翻した。


「避けた!?」


 振り返った彼女が驚く。


 空中で身を翻す。後ろ向きに地面に着地、そのまま数メートル進行方向にスライドした。


「いっちょ前に避けやがって、腹立つ〜」


 外してなんか悔しそうにしている。隣のプロトが鼻で笑った。


「よし、もう許さねぇ。普通にぶっ壊す!」


 そういうと彼女はそのままジグザグに移動。その姿をドーベルマンが目で追った。


 あっという間にロボット犬との距離を詰める。瞬間、下段の廻し蹴りをかました。

 

 それをドーベルマンが跳ねて避ける。直後、流れるように振り返ってのソバット。それが犬の顔面を捉えた。


 直撃だった。が、その後信じられないことが起きた。ヒカリの蹴りがドーベルマンの首元まで破砕したのだった。


「…………すげぇ」


 思わず感嘆の声を上げる。


「あ、こりゃまずい」


 プロトが言い切る前にノイジーに頭を掴まれ、そのまま地面に抑えつけられた。


 瞬間、頭上をロボットの素体がすっ飛んで行く。


 物凄い衝突音。振り返れば、後ろのシャッターが大きく拉げていた。


「少しは考えて行動してくれませんかね? アナタ最新で最優良の新機体なんでしょ?」


「あら? 古参で優秀な改修機がいるのだから安心してカバーは任せられるのでは?」


 まったく、とため息を吐くプロト。そしてヒカリは再び迎撃に出た。


 半ば冗談か何かだと頭の中で処理が出来なかった事実だったが、凄まじい光景を目の当たりにされると彼女が本当にロボットであると認識せざるおえない。


 完璧な少女の外見をした人間と瓜二つなロボット。人間同様に思考する彼女を博士はどのような思いで生み出したのか。


 ヒカリは相変わらずドーベルマンを追い回している。あ、取った首投げた。


「しかし、連中本当にやりあう気がないんだなぁ、連中」


 起き上がりながら博士は言った。


「戦闘が目的でないならこの数はなんだ? 時間稼ぎにしか思えない。いや、時間稼ぎをしているのか、なんのために? 本隊の到着を待つ? まさか、そいつを嫌っているのに」


 ぶつぶつと口元に手を当てて考察している。


 その一方で破砕音は続く。迎撃という名前の虐殺で、ヒカリは逃げる犬を追いかけ次々にスクラップを生み出していった。


「これで、ラスト!」


 どこで拾ったんだか、手に持っていた鉄パイプを振りかぶって思い切り投げつけたヒカリ。遠くのドーベルマンの身体を貫通、脚部を破壊した。


 鉄パイプが当たった勢いで転がっていく。壁にぶち当たり止まる。フレームを軋ませモーター音をうならせ起き上がろうとするロボット犬。その首を踏みつけ、ヒカリはとどめを刺した。


「どうよ?」

 

 手を腰にニカっと振り返る。そのまぶしい笑みに目を奪われそうになるのだが。


「うーん、死屍累々」


 あっちこっちに転がるロボットの残骸。破片以外にも原型の留めた足やら頭やら大変スプラッタな状態だった。


「なんか、もっとこうスマートに出来ないんですか?」


 その様子を見てプロトが呆れたように言った。


「とりあえず壊しゃいいのよ」


 ヒカリはどや顔で言った。思考が完全に輩のソレだ。


「さて、お次はどう出る? CIA」


 博士がつぶやいた。それと同時に遠くからサイレンの音が聞こえた。


「救急車かな? 少年のお迎えかい?」


「小学生のネタですか、博士。というか、それ万国共通なの?」


「そういう文化があるって聞いたけど、違うの?」


 誰だ教えた奴。博士の言葉に呆れていると、そのサイレンの音が近づいてくる。近づいてくるどころか輪唱しだす始末だ。


「…………あれ? これって」


「おー、正解だ、正解。こっちにわんさか来てんぜ」


 相変わらず腕をぐにゃらせてノイジーが言った。


 あちこちで聞こえるサイレンの音は半月上に建物を囲んでいるようだった。


「囲まれてる?」


「囲まれてる」


 博士が聞くと、ヒカリが答えた。


 サイレンの音が止むと今度は慌ただしく人が動き回る気配がある。


 大声、怒号。複数の人が辺りを行き交っている様子が建物の壁越しに伝わる。


「どうします? 今なら裏から脱出できそうな気もしますが?」


 プロトが尋ねた。


「やめとこう。自分達の設備のお陰で外の様子が分かりづらい。出会いに、なんてちょっと印象に悪い」


 博士は言った。しばらくすると慌ただしさも止み静けさが訪れた。が、スピーカーを付けた時のような高音が響いた。


『こちらは県警加鳥警察署捜査第一係横水誠一だ。現在この建物を包囲している。中にいる者は速やかに両手を上げて出てきなさい。繰り返す。こちらはーーーー』


 うーん、県警仕事している。


「どうする? やる?」


 手のひらに拳をあてて経戦態勢。うーん、この世紀末脳。


「好戦的だなぁ。やる訳ないでしょ。現地人だよ。本当の犯罪者じゃないんだから」


 それを聞いて流石に眉をひそめた博士。


「しかし、このまま籠城って理由にも行きませんよ?」


 プロトが言う。


「しょうがない。当初の計画通りに行きますか」


 やれやれと肩を竦めた博士。


「行き当たりばったりが過ぎるんですよ」


「人生、そんなもんだよ」


 言ったプロトに対して博士そう返した。


「という事で、少年。出番だ」


 一瞬、何を言ってるのか分からなかったが、先程の会話を思い出した。そして、それに気づいた四人がこっちを見て嗤った。



ーーーーーーー


作者です。ノリと勢いで書いてます。


地名について思うことがあったので、過去分に加筆やら訂正やら行う予定です。あしからず。

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