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「あんた、未成年?」

 新入りの客である僕がさっきからジンジャーエールしか頼まないことから察してか、水色のアイシャドウをマスカラでばさばさしたまつ毛の上に刷いたママがカウンター越しにそう聞いた。

「はい、十八なんです」

「そう。大学生?」

「いや、浪人生で……」

「おっと、これは失礼。ところで声が低いのね」

「女装なんです」

「あらまあ、あたしゃすっかり女の子だと思ってたよ。いい声してるわ」

「お酒を飲めないのに、こんなところにいて面白いの?」

 椅子を二つ挟んで隣のカウンター席にかけていた男の人が、分別はあるもののいくらか酔いのまわった調子でそう聞いてきた。

 男は、見たところ二十代に入りたてで、豊かに発達した青年の肉体にネックラインの広々とした半袖シャツがぴったりしていた。ママと違って化粧はしていなかった。

 僕はそれまで、正月に親戚から勧められるお屠蘇さえすべて断ってきたものだったから、果たしてお酒を飲んでいるときの精神状態と飲んでいないときのそれがどう違うのかということを考えることができなかった。それで正直に、

「分かりません」

 と答えた。

 男はさも面白くないという風にウイスキーを一口飲んだ。

 ママが先ほどの非礼をわびてか、

「これ、サービスね」

 と言って、僕の前に揚げたてのフライドポテトを置いてくれた。

 男はその一部始終をまともに眺めてから、今度は、

「あんたはウケ? タチ? リバ?」と聞いてきた。

「ノンケです」と正直に答えると、

「あんた、子供に手出したら承知しないよ」

 とママが横から口をはさんでくれた。

 男は構わず、

「あんた、それにしてもかわいいな」

 と笑いながら言った。はにかむような、まぶしいような、噓のない、愛嬌に富んだ笑顔だった。

 正直に言って、僕はこのときとてもうれしかった。というのも、僕はそれまで他人から、正直な感想として「かわいい」といわれたことなんて一度もなかったからだ。

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