第41話 王子の作戦



 リオネルの作戦はこうだ。

 まずリオネルが自由騎士団から逃げたことにしてディオニー達に保護してもらい、砦内に入る。ヴァルク達を人質に残しておく意味はないため処刑すると言い、人質を全員、砦の広場に連れ出す。

 そしてリオネルが合図をしたら、カイル達は雷火玉で格子門を爆破、ついでに城壁も爆破して風穴を開け、イソルテ軍の混乱に乗じて人質を救出。そして砦地下の雷火にもリオネルの髪の導火線を使って着火し、砦を崩壊させる――というものだ。

 イソルテ軍は戦闘どころではなくなる。反して、自由騎士団は安全な砦の外。形勢逆転というわけだ。イソルテ軍は撤退せざるを得なくなるだろう。

 もし失敗したら、自分の命と引換えにでもヴァルク達を助け出す。リオネルはそう心に決めていた。王太子である自分がこの戦いで死ねば、事を起こしたディオニーとイソルテ公国はその責任を追及される。あとは目覚めた父上が、うまくやってくださるだろう。

 リオネルが剣を掲げ合図を送ると、すさまじい轟音が正門と城壁を襲い、吹き飛んでいた。処刑を見物しようと城壁の上にいたイソルテの兵士達が、悲鳴を上げながら降ってくる。

 リオネルは扱いづらい首切り用の大剣を放り出し、腰のナイフを引き抜いてヴァルクの縄を切った。


「早く門の外へ逃げて。これから、砦が崩壊するんだ」


 ヴァルクは縄を解かれると、リオネルが放り出した大剣を片手で拾った。そして、まるで小剣でも扱うように振るい上げて言う。


「門が開いた! 俺が援護する、全員退避!」


 将の号令に人質の騎士達が「は、はいっ」と後ろ手を縄で縛られたまま立ち上がり、正門へと走り始めた。正門ではカイル達自由騎士団が剣を抜き「こっちだ!」と叫んでいる。リオネルはヴァルクの腕を引いて言った。


「ヴァルクも逃げるんだよ。怪我人なんだから」

「支障ありません。俺は殿下のお傍にいます」

「護衛騎士じゃあるまいし」

「護衛騎士にしてください」


 こんな時に何の冗談だと思ったが、ヴァルクが見たこともないほど真剣な目をしていたので、リオネルは息を飲んだ。


「殿下が嫌だとおっしゃっても、俺は勝手にあなたの騎士になります。もう待ちくたびれましたから」

「待ちくたびれたって……」

「愛しています、殿下」


 突然の告白にリオネルが衝撃を受けて立ち尽くしていると、いきなりヴァルクに抱き寄せられた。心臓が口から飛び出しかけたリオネルの背後で「ぎゃっ」と悲鳴が聞こえる。振り返ればイソルテ兵士が、ヴァルクに斬られて倒れていた。

 城壁や砦にいたはずのイソルテ軍が、もう広場に集まり始めていた。ヴァルクがリオネルを庇いながら、次々に敵兵を切り伏せていく。そんな喧噪の中、リオネルの耳にカイルの声が届いた。


「殿下! 全員、砦の外に出ましたっ」

「わ……わかった! ヴァルク、これ被って伏せてて!」


 リオネルは言うが早いかマントを脱いでヴァルクに押しつけ、砦へと駆け出した。篝火の松明を一つ抜き出し、地下倉庫の通気孔がある場所へ行く。格子に結びついた自分の髪の毛に火をつけ――地面を蹴り、できるだけ離れて身を伏せた。

 瞬間、何かが背中に覆い被さってくる。


「…っ?」


 ドオンという激しい爆音とともに、地面が揺れた。



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