第2話 革命の日
市民達が王城を包囲し、ヴァルク率いる自由騎士団が、革命の剣を抜いた日。
王太子リオネル・アイゼン・レアは、お気に入りの娼婦を何人も私室に連れ込んで、乱痴気騒ぎの真っ最中だった。
巨大なベッドからはみ出るほど裸の女達が溢れていたが、寝台のスペースを一番占拠していたのは、他でもないリオネルだ。乱れた黄金の長い髪は、だらしなくたるんだ白い肉に垂れ落ち、青い瞳は大きな顔の中に小さく埋もれている。民は重税と飢えに苦しんでいるというのに、甘い菓子とワインで育った腹は樽のように膨らんでいた。
私室に飛び込んできた革命軍の自由騎士達が、その様を見て怒りに剣を振り上げようとしたのも無理のないことだった。
「城の外では、子供でさえ飢えて死んでいるというのに!」
「ひっ、や、やめろっ! 剣を下ろせ! 僕は王子だ、王太子だぞっ」
二十四歳になるリオネルは、子供のように狼狽えた。その情けない有様に、自由騎士達がますます殺意を募らせたのは言うまでもない。こんな奴のために、どれけの人間が苦しんだことか。誰もが王子の死を望んだ――ように思えた。
「傷はつけるな。捕らえればそれでいい」
低く静かなのによく通る声は革命軍の自由騎士団長、ヴァルク・カーディアのものだった。若樹のようにすらりと伸びた体躯、鳶色の髪と鋭い目、鎧とマントを羽織った英雄は、ベッドにいる全裸王子より遙かに威厳があった。
副団長でヴァルクの親友でもあるカイルは「冗談だろう」と嫌悪感をあらわに言う。
「殺すなって言うのか? ここまで来て、怖じ気づいたんじゃないよな」
「殺せば陛下に合わせる顔がない。こんなのでも、あの方のご子息だ」
国王ジリオン・アイゼン・レアは、今も病と闘っていて床に伏している。もうずっと寝たきりで、意識が戻ることはほとんどない。それでも彼は人望厚き王であり、ヴァルクにとっても敬愛する優れた剣士だった。
ヴァルクの言葉に、カイルも他の騎士達も、苦虫を噛み潰したような顔になる。
「……ったく、目と髪の色は陛下と同じだが、とても血を引いてるとは思えないな」
「亡き王妃殿下を侮辱するのは、いくらおまえでも許さないぞ、カイル」
「おれだってエヴェリナ王妃の不貞を疑ったことなんかない。ただ、目の前にいるアレが、あの方々の子供だと信じられないだけだ」
部屋に乱入してきた騎士達に娼婦達が裸できゃあきゃあと騒ぎ逃げ回る中、リオネルは股も隠さず「こんなのとか、アレとか、失礼じゃないかっ」と怒っていた。
「エリー――エリアナは? 妹は無事なんだろうなっ!?」
「お部屋にいらっしゃいます。ご安心を」
ヴァルクが言うと、カイルは鼻を鳴らした。
「王女殿下はおまえと違って、礼節ある方だからな。丁重に扱うさ。捕らえるのはおまえと、側近の腐った貴族連中だけだ」
「おまえだと? 下賤の者が、えらそうに」
「捕らえろ」
ヴァルクが再び、はっきりと命じる。それで、リオネル王子の贅沢と欲にまみれた生活は終わった。
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