革命の英雄は、堕落王子にガチ恋中。
カギノカッコ
第1話 プロローグ
仕事を終えた者達が夕餉を楽しむ、賑やかな居酒屋。そのカウンターテーブルの端からは、リュートの音色に合わせ吟遊詩人の歌声が響いていた。
“むかしむかし、レアの国
剣を振るいし王がいた
王の名前は英雄ジリオン
王の手により国は栄え
民は平和に暮らしけり
だが英雄は病に倒れ
王の威光は閉ざされる
若き王子がその後を継ぐが
豪華な暮らしに溺れ果て
国の富を浪費せり
国は衰え、民は苦しみ
絶望の闇が襲い来る
しかし希望の灯火が
革命となり燃え上がらん
その灯火を掲げしは、
正義を抱く若き騎士
ヴァルクの名は雷の如く
国を救う剣とならん
ヴァルクは城を陥落し
堕落王子を捕らえたり
英雄讃えし歓喜の声が
今日も王国照らす歌となる”
カウンターで酒を飲んでいた男が「懐かしい歌だ」と笑った。
「自慢じゃないが、おれのじーさんは英雄ヴァルクと一緒に戦った自由騎士団の一人だったんだぜ」
彼は大きな声で、少し離れたテーブルに独りで座っている若い女のほうをチラチラ見ながら言う。どうやら彼女の気を惹きたいらしい。若い女はラム酒を飲んで「へえ、そうなの」と相槌を打つ。
「そのおじーさんがあんたくらいの年の頃は、こんなところで飲んだくれたりできなかったんでしょう。ひどい悪政で食べ物も買えなかったって聞いたことあるよ」
「ヴァルクが王子を捕らえた後は違ったさ。腐りきった貴族どもを一斉に処刑して、税も下がって国は潤ったんだ」
「堕落王子は処刑されなかったの?」
「されてたら、この国はとっくに滅びてるって」
女は「どういうこと?」と不思議そうに尋ねた。
「さっき聞いた歌じゃ王子は贅沢三昧して民を飢えさせた、悪い奴だったんでしょう? 父親の英雄王が国を栄えさせたのに、ダメにしちゃったって」
「そうなんだけど」
どうやらこの女は、歴史の知識がまるでないらしい。“学校”というものが創設されてからずいぶん経つが授業料が必要で、女の学生は多くないから無理もないことだった。女が習うのはもっぱら、刺繍や家事というのが未だに一般的なのだ。
しかし、これはチャンスかもしれない。男はゴクリと喉を鳴らした。
「堕落王子が英雄にとっ捕まったあと、どうなったか知りたい?」
「うん」
「じゃあ一杯、お酒付き合ってくれる?」
「いいよ」
よっしゃ。男は心の中でガッツポーズをした。ありがとう、堕落王子……!
男は自分と彼女の分の酒を新たに注文し、コホンと咳払いをした。
「その王子の名前は、リオネルって言うんだけど――」
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