これから
~神谷委員長side~
「……神谷委員長」
「……はい」
来賓席。後援企業・組織からの来客が座る席だが、アイドル甲子園運営委員会の幹部も座ることがある、事実上の貴賓席だ。当然ながら最もステージがよく見える席でもある。
その席で、ある後援企業からの来賓が神谷委員長へ向けて口を開いた。
いよいよ男子に対する批評の時か、と神谷委員長は腹を括った。
「素晴らしいではありませんか、男子達のパフォーマンスは」
「全く。なぜ今までやろうとしなかったか」
「放送すれば確実に数字を取れますね。ホント、今まで男子の部をやらなかったことがもったいなく感じてしまいます」
口々から飛び出すのは、男子――つまりAwaiauluに対する賛辞の数々だった。
さらに、もう一歩踏み込んだ提案もなされた。
「どうせなら、女子と男子の優勝者同士で競わせるのもいかがですかな?」
「確かに。特色は違えど、ステージパフォーマンスに男子も女子も関係ありませんからね」
「今後はより盛り上がるアイドル甲子園になりそうですね、神尾委員長」
「ええ、その通りですね」
そう答えた神尾委員長の顔は、どこか安堵していた。
~紅太side~
一月末。例年、アイドル甲子園運営委員会から総評が発表される時期だ。
総評については表彰式の時に一応発表されるが、それは本戦のパフォーマンスについて述べているに過ぎない。
大会後に発表される総評は本戦のみならず後夜祭や運営に対するものまで、アイドル甲子園全体について評価している。要は後夜祭を含めた出演者に対する評価と運営に対する反省会、そして今後の展望もひっくるめたものだ。
そして総評の中に、このような一文があった。
『今回のアイドル甲子園では後夜祭に男子ユニットを特別招聘した。彼らは他の女子ユニットと共にパフォーマンスを行ったが、非常に洗練された物であり、今年の上位入賞者と比較しても同等もしくはそれ以上と言える。
この後夜祭のパフォーマンスを鑑み、アイドル甲子園男子の部の創設を真剣に検討するべきとの結論に至った。よって、アイドル甲子園運営委員会は本年度2月1日をもって『男子の部設立準備室』を設置し、男子の部設立へ準備に邁進すると決定した』
つまり、それは……。
「男子の部が正式にスタートするってことか……」
「これって、つまり……」
「僕達の夢が、一歩前進したんだよ~」
俺達の夢であった『アイドル甲子園男子の部設立』。それが一歩前進し、運営委員会が準備を始めると宣言したんだ!!
俺達が喜びを分かち合っていると、教室の扉がガラッと開いた。
「いたいた。おめでとう、みんな」
「みんなの夢……少し近づいたな……」
「三人とも頑張ったよねー」
「筑波先輩、松島先輩、千歳先輩!!」
やって来たのは、Glorious Tailの三人。どうやら俺達の夢が近づいたことに対するお祝いにやって来たらしい。だが、要件はそれだけではないようだ。
「ところで、朝日君達は準備室設置の後ろの文を読んだ?」
「後ろの文……ですか?」
「ええ。ここよ」
筑波先輩に教えてもらった部分を読むと、このように書かれていた。
『また男子の部が設立した暁には、女子の部と男子の部の各優勝者同士で最後のパフォーマンスを行い、最優秀賞を競うことも検討する』
「つまり、私達とあなた達がそれぞれ優勝すれば、正式な大会の場で勝負できるって事!」
「そうか、筑波先輩達の夢も一歩近づくんですね」
筑波先輩達Glorious Tailは、実力差がありすぎてしまうために鎬を削り合うライバルがいなかった。そこで自分たちに比肩する実力を持つと考えた俺達Awaiauluに目を付け、俺達の夢を応援してくれていたんだ。
そして、Glorious Tailが望んでいた俺達と正式に戦える場を、もう少しで手に入れられる所まで来たんだ。
「それでね、今校長と話し合い中なんだけど、アイドル甲子園に男子の部が出来そうだから我がアイドル部も男子部員を募集しようと思ってね。速ければ4月にも入部できそうだけど……」
「まぁ……今すぐ返事はしなくていいから……」
「でもぉー、アイドル部に入部すればいっぱいライブ出来るからー、入った方が色々お得だよー」
そう言って、筑波先輩達は自分たちの教室に帰っていった。
おそらくアイドル部へ入部できるようになれば即刻入るんだろうけど……1回みんなと話し合った方が良いかな。
筑波先輩達と入れ替わるようにしてやって来たのは、俺達の同級生でアイドル部員の小日向さんだった。
「聞いたわよ。あんた達もアイドル甲子園に出られるかもしれないって。まぁ、おめでと」
「ああ。ありがとう」
「それと、アイドル部に入部できるかもしれないっていうのも聞いた。そうなったら、あたしとあんた達は公式にライバル同士ね」
でも……と小日向さんは続ける。
「同時に同じ部活の部員同士、仲間でもあるから。色々助け合えることもあるだろうし。まぁ、あんまり筑波先輩達にばっかり頼んな
いでよ。色々忙しいんだから、あの人達」
言うだけ言って、小日向さんは自分のクラスに戻っていった。
多分、小日向さんはもっと頼れる人を作れと言いたいんだろう。筑波先輩達が忙しい身の上なのは事実だろうし、俺達がアイドル部に入部すれば立場が変わるから、これまでみたいに気軽に頼ってばかりもいられないだろうから。
一通り来客対応(?)を済ませると、俺は蒼司と菜月の方へ振り向いた。
「ところで、新曲のイメージが浮かび上がったんだけど、これからウチに来て聞いてくれないか?」
「おいおい、またかよ」
「ほんと、紅太君はアイディアの宝箱みたいだよね~」
「当たり前だ。アイドル甲子園への出場が現実味を帯びてきたんだ。ストックを作るに越したことはないだろ?」
そして、俺は蒼司と菜月を連れて家路についた。
俺達の夢は現実になりつつある。現実になれば当然、夢も変わるだろう。でも、俺達のやることは変わらない。男子の部が出来れば当然優勝、そして最優秀賞が夢になるが、その道筋は今までの延長線上になるからだ。
だからこれからもパフォーマンスを磨き、アイディアを見つけ続ける。蒼司と菜月と一緒にな!!
男子禁制! アイドル甲子園への道 四葦二鳥 @keisuke1011
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