後夜祭本番

 暗転したステージに上がる。ステージに立つのは俺、蒼司、菜月、そして小日向さん。

 ステージが明るくなる瞬間、ディスコ調のBGMが流れ始めた。学園祭のライブで披露した『カレー・ディスコテーク』だ。


「この曲、『カレー・ディスコテーク』じゃないか?」


「割と最近発表された曲だったよな!?」


「メンバーはオリジナルと同じか……。だが、四ヶ月で動きのキレが鋭くなっている……」


「さすが、10代の成長力はすさまじいな……」


 観客の声からは、俺達の曲がオリジナルと同じ事や四ヶ月の間に成長している事に関心している様子が聞き取れる。

 フルで一曲終えると、ステージは暗転する。そしてミステリアスなBGMが流れたかと思うと、暗めの照明でステージが照らし出された。小日向さんは既に退場している。


「このBGM……『霧の街のシャードッグ』!?」


「確か、銀月農業のライブで発表された曲だっけ?」


 歌い始めは俺、蒼司、菜月がそれぞれ割り当てられた歌詞を歌う。そしてまた俺のパートに戻る……はずなのだが。


「スポットライトが2つ増えた!?」


「おい、あれって銀月農業のドッグ・ヨーンじゃないか?」


「柴崎 小豆と秋田 真紀!? あの二人とコラボか!!」


 『霧の街のシャードッグ』は、ドッグ・ヨーンの二人とコラボする事になっている。普段からカワイイ系の曲を歌っている彼女たちにミステリアス系の『霧の街のシャードッグ』は少々苦戦したらしいが、さすがはアイドル甲子園で入賞したユニット。最終調整までにバッチリ仕上げてきていた。


「柴崎と秋田、キーは合わせないで歌うんだな」


「だが、不思議と違和感がない……」


「あれだ、『高音足りてる』ってヤツだな」


 曲が終わり、再びステージが暗転する。次の瞬間、ステージがパッと明るくなり、お囃子が流れる。ドッグ・ヨーンの二人はいつの間にか退場しており、さらにいつの間にか高座と扇子が用意されている。リフターを使ってステージ下から上へ持ち上げた物だ。


「これ、確か『有珠の冒険旅行』だったか?」


「そうだろ。高座の隣の紙にそう書いてある」


「だが、席が5つあるな……。まさか……」


 俺達が真ん中の3つの席に座ると、BGMが異常に速い曲に様変わりした。それと同時に、ステージの両脇から二人の人影が現れ、空いている両脇の座布団に座った。


「おいおいおい、今年の準優勝者『雪月花』が来たぞ」


「『雪月花』の曲とは毛色が違う曲だぞ。どんなステージになるんだ……?」


 観客から期待のような不安のような複雑な声が聞こえてくるが、少なくとも心配はご無用と言っておく。確かに雪月花が普段歌わないような電波ソングだが、西垣さんと三条さんはきっちりマスターしてきた。

 そして歌声はと言うと……。


「うわ、低い!」


「演歌調や民謡調の歌を歌うときは、女子にしては低いなーと思うことはあるけど……」


「ぶっちぎりで低い! あんな声も出せたのか……」


 西垣さんと三条さんは、俺達のキーに合わせることを選択した。本人達も『こんな低い声出せるとは思わなかった』って言ってたけど、新しい扉を開けたと喜んでいたな。

 『有珠の冒険旅行』が終わり、西垣さんと三条さんは退場。高座のセットもステージ下へと引っ込む。

 直後に流れたのは、クラシックを想起させる優雅なBGM。それに合わせ、俺達は令嬢らしい立ち振る舞いと少女らしい歌声で歌う。


「『ストロング・プリンセス』だ!!」


「相変わらず女の子にしか聞こえない声だな……。どんな声帯してんだ?」


「それよりも、立ち振る舞いが素晴らしい。宝泉寺女学院で披露した時みたいなドレスやメイクをしなくても、少女にしか見えない……」


 歌が後半にさしかかり、曲調がガラッと変わる。革命が起き令嬢達は覚悟を決めて戦いに身を投じる決意を固めたシーンだ。本来なら早着替えが仕込まれた衣装で見た目から変わってしまう場面だが、今回の衣装にそんな機能は無い。

 その代わり、衝撃度については宝泉寺で披露したとき以上だと自負しているサプライズを用意している。


「舞台袖から誰か……」


「貝吹だ! 宝泉寺女学園、バードクラス、今年のソロ部門優勝者の貝吹 杏花だ!!」


 貝吹さんがゲストとして曲の後半から参加してもらうのだ。貝吹さんは剣を帯刀し、さらに3本件を抱えている。

 その剣を俺達三人に投げ渡し、曲の後半が本格的にスタートする。

 曲の後半ではかなりの頻度で剣を振るい敵を倒す演技が入るのだが、貝吹さんは難なく剣を振っている……どころか、貝吹さんらしいアドリブを入れて客席を沸かしている。

 

 そしてもっとも注目されたのが。


「男子達の声が高くて、貝吹が低い……?」


「なんというか、不思議な感じだな」


「脳がバグるな。だがそれがいい!!」


 そう、普通なら俺達男子の声が低くて貝吹さんが高いキーで歌うところだが、あえて逆にして俺達が高いキー、貝吹さんが低いキーを歌うことにしたのだ。

 最終調整で貝吹さんから提案があり、ちょっと試してみたところ面白かったのでそのまま本番でも採用することにしたのだ。それが見事に当たったみたいで、客席は興奮に包まれている。

 

 曲も終わり、俺達は剣を貝吹さんに預けて退場してもらう。続いてリフターでステージ下から生えてきたのは、南国風にアレンジされた玉座。それも6脚。

 向かって右側の3脚は空席。つまり俺、蒼司、菜月が座るもの。そして左側にはすでに人が座っていた。その人物とは……。


「まさか、『Glorious Tail』!?」


「去年と今年のユニット部門覇者!!」


「雲鳥学園の筑波、松島、千歳! そういえばAwaiauluも同じ雲鳥学園だったな」


 俺達が玉座に座ると、BGMが流される。曲は俺達Awaiauluが出した初めての曲。俺達の原点とも呼べる曲『アウアリイ』だ。


「相変わらず不思議な曲だな。ゆったりした南国風なのに力強い……」


「それに、前よりも力強さが強くなった気がするな」


「Glorious Tailもカバーしてたよな? あの時よりも数段進化してる気がするぜ」


 Glorious Tailとのコラボは客席を沸かせ続けている。俺達はフルの曲を5曲も歌い続けていて、普通なら疲れていてもおかしくない。だが、不思議と疲れは感じず、このまま加速して突っ走れそうな気がしていたのだ。

 それを成せたのは、ジュンケルのおかげか会場の魔力か。


 そしてついに――。


『ありがとうございました!!』


『ワアアアアアァァァァァァァ!!!!!!!』


 ラストまで歌いきった。ステージは暗転し、俺達の出番は終わった。

 俺達のアイドル甲子園。今後を占う重要な後夜祭は、俺達が披露した実力を全て吸いきって幕を降ろしたのだ。

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