後夜祭前夜

 そして、アイドル甲子園本戦の日がやって来た。

 スケジュールは、一日目の朝から夕方までがユニット部門、ユニット部門終了後から二日目の昼過ぎ頃までソロ部門。そこから表彰式を挟んで三日目の昼までが後夜祭の準備時間となり、午後一時から後夜祭がスタートする。


 結果を言うと、ユニット部門では当然のようにGlorious Tailが優勝。準優勝と三位はそれぞれ俺達が知っている雪月花とドッグ・ヨーンだった。

 ソロ部門では、バードクラスが優勝。そう、宝泉寺女学院の貝吹杏花さんだ。彼女はその時その時でメンバーを変更し、一切歌わせず自分だけが歌うというスタイルでメンバーを演出担当とすることでソロ部門に出場しているのだ。

 他には、なんと小日向さんが一年生初出場にして上位に食い込んだ。これは大金星と言って良いだろう。


 そして、表彰式が終わるとここからが僕達の本番だ。


 後夜祭の準備時間では、武道館内のあらゆる部屋や道場の他、周辺のダンススタジオが全てアイドル甲子園出場者のために貸し出される。そこで後夜祭のためにレッスンを行うのだ。

 俺達は筑波先輩から指示された道場へ向かったのだが、その途中……。

 

「も、もしかしてAwaiaulu!?」


「あの、もしよかったら私達と後夜祭を……」


「すみません、先約があるので……」


 後夜祭で行うコラボは、その場で組むパターンと事前に当事者同士で話し合って決めるパターンがある。今回俺達は筑波先輩達の差配で事前にコラボ相手が決まっていたが、どうやらこの場で俺達と組みたい人達も結構いるらしい。

 というわけで、コラボの突破的なお誘いを断りつつ指定された道場に到着した。


「待ってたわよ、朝日君、紀伊君、木戸君」


「これからここで……コラボ予定の出場者と最終調整をやってもらう……」


「最初はあたし達ねー。後から順番にコラボ相手がどんどん来るからー。申し込みはあたし達とのレッスンが終わったらあたし達でやっておくからー」


 待っていたのは、Glorious Tailの筑波先輩、松島先輩、千歳先輩だった。最初に筑波先輩達とレッスンを行い、後に次々にやってくるコラボ相手とレッスンをやって本番前の最終調整を行うらしい。

 ちなみに、千歳先輩が言った『申し込み』とは、午後6時までに誰とどんな曲を後夜祭で披露するのかを運営に知らせる手続きの事だ。この申し込みを元に後夜祭のセトリは決まる。

 なお、俺達は特別枠での出演でセトリも特別に準備されてはいるが、申し込みについては他の出演者と同じようだ。


「はい、お願いします!」


「最初で最後の合わせです。不明点を徹底的に解消しましょう」


「いいステージになるよう、頑張りましょうね~」


 そして俺達は、限られた時間の中で最終調整を行った。もちろん、順番にやって来たコラボ相手とも徹底的に調整をした。

 


 

 本番当日。


「そろそろ出番だな」


「ああ。準備は万端だ」


「ここで僕達の目標がどうなるか決まるんだよね~。がんばらなくっちゃ~」


 あてがわれた楽屋で、俺達は出番を待っていた。

 最終調整は上手くいった。みんな、俺達がまとめた資料を元にある程度仕上げてくれていたのが功を奏したようだ。本戦に向けてのレッスンの合間や本戦後の調整時間のみという限られた時間で、よくここまで物にしてくれたと思う。

 あとは、ステージ上でどれだけ実力を発揮できるかだ。


「Awaiauluの皆さん、そろそろ出番です。共演の方はすでに舞台裏に待機しています」


「わかりました。行くよ、みんな!!」


「おう!!」


「は~い」


 俺はジュンケルを一気に飲み干すと、蒼司、菜月と共に舞台裏へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る