後夜祭へ向けて
「――というわけで、あなた達Awaiauluのアイドル甲子園後夜祭への参加が決まったわ」
筑波先輩達がアイドル甲子園運営委員会と会議をしてから数日後。俺達は呼び出しを受け、アイドル部の会議室に足を運んでいた。
そこで筑波先輩から告げられたのは、俺達Awaiauluがアイドル甲子園の後夜祭に参加することと、俺達の母さん達が一緒に交渉したという事実だった。
「母さん、そんな事やってたのか……」
「仕事で出かけるとは言っていたが……まさか実行委員会に行ってたとは……」
「でも~、ママ達のおかげで僕達はチャンスをつかめたんだよね~」
「それにしても驚いたわ。あなた達のお母さんって、アイドル甲子園の設立に関わっていたのね。しかも第1回アイドル甲子園の優勝者だったなんて」
……え? それ、初耳なんだけど。蒼司も菜月も目を丸くして固まっているから、二人ともその事実を知らないんだろう。
「……え?もしかしてあなた達、自分の母親がアイドル甲子園の関係者だって知らなかったの?」
「ええ、まぁ……。家では高校時代の事について話したことも無かったので……」
「俺や紅太の家のスタジオの教え子で、アイドル甲子園に出場した人はいたが……その程度の関係だと思っていた」
「僕のママも特に何も言ってなかったね~」
まさか、自分たちの母親の過去について他人から知らされるとは思わなかったな……。
「……なるほど。あなた達がアイドル甲子園を夢見たのは、親の影響では無かったのね。血は争えないってことか……。
とにかく、後夜祭への出演が決まったから、それに向けて準備をして欲しいの。今回の後夜祭の反響次第では、男子の部の設立が決まるかもしれないから」
ああ、この前母さんが不思議なことを言っていたのはこのことだったのか。『紅太達のこれからのがんばりが大切よ』って言ってたんだけど、その時は何のことかわからなかったんだよね。
「アイドル甲子園の参加校が決まったタイミングで、コラボしてくれそうな相手に声をかけてみるわ。あなた達は後夜祭に向けて準備をお願い」
アイドル甲子園のスケジュールは、11月中に予選が行われる。
まずアイドル甲子園のエントリーフォームとスマイル動画の各校アイドル部のチャンネルを紐付けし、エントリー用のハッシュタグを付けて動画を投稿する。動画は課題曲『THE IDOL CLUB』と自由曲を1つにまとめる。
投稿された動画は締め切り後に審査員によって評価され、12月中旬までには結果が送付され、出場校が決定する。
アイドル甲子園の本戦は、1月の第一週にある三連休で行われることになる。会場は武道館の時と東京ドームの時があるが、今回は武道館で行う。
『甲子園』と名前が付いているのに武道館か東京ドームで行うのは、そこがアイドルの聖地のようなイメージを持たれているからだ。『甲子園』は場所の名前ではなく、高校生競技の全国大会という意味で付けられているだけだ。
俺達は本戦が行われるまでの間、様々な準備に着手した。まず、振り付けの見直しだ。
後夜祭では他校のユニットとコラボする。しかも練習時間は多く見積もって三時間程度。それまでにステージで見せられるクオリティに仕上げられるよう、振り付けをシンプルにしなければならない。
もちろん、元々の振り付けの良さや印象的な部分を損なわないようにだ。
「蒼司、ここの振り付けだけど、こう変えるのはどうだ?」
「それでも問題はない……が、欲を言えばもう少し原型を残したいところだな……」
そして衣装の準備だ。後夜祭では、俺達は初めて何曲も連続で歌うことになる。もちろん、衣装を変える時間なんて無い。
だから、披露する曲全てに合うような衣装を考えなければならない。
「できたよ紅太君~。簡単なイメージスケッチだけど~」
「最初に作ったアロハシャツの衣装をベースに、今まで歌った曲のイメージを盛り込んでいるのか……」
「うん~。このコートはドレスっぽい要素も足してるから~、『ストロング・プリンセス』を歌うときにも合うと思うんだよね~」
「よし、このスケッチで行ってみよう。細部は菜月に任せる」
そして12月中旬。アイドル甲子園本戦出場校が発表された。
当然のようにGlorious Tailは出場決定。他に何組か出場が決定したが、最も目を引いたのは。
「あ、小日向さん出場決定か」
「雲鳥学園の一年では小日向さんだけが出場するのか」
「ま~、思い出してみれば本戦に出場できる実力はあるよね~」
小日向つむぎさんが出場決定。一年生で本戦出場は彼女だけであり、どれだけ小日向さんの技術が群を抜いていたのか物語っている。
また、筑波先輩からコラボ相手候補のアイドル甲子園出場が全員決定したと連絡を受けた。これにより、後夜祭への準備が本格的にスタートすることになる。
「それじゃあ、俺達がやることは……」
「披露する曲の資料作りだな。譜面とダンスのコツをまとめるぞ」
「それと、ダンスのお手本と解説動画も作らなきゃだね~」
自分たちの曲とダンスを他人に教える、しかも短時間でマスターできるように資料を作るのは骨が折れそうだが……やるしかない。
「細かいところは後で考えるとして~、まずは曲の前半部分を流すね~」
「とりあえず作ってみて、不自然な所やわかりづらいところを直していく。それでいいか、紅太?」
「ああ、頼む」
こうして俺達は打ち合わせをしながら準備を進めていく。俺達に残された時間は短い。一分一秒も無駄には出来ないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます