会議中の追求

 翌日、俺は蒼司と菜月にメールの内容を伝えた。


「……そうか。でもまぁ、ある程度予想していた結果だな」


「そうだね~。たった一年で結果が出るとは思ってなかったし~」


 やはり、二人とも俺と同じ意見のようだ。俺も一年程度の活動で実行委員会を動かせるとは思ってなかったしな。

 だが、今回アイドル運営委員会に送った質問は公開質問だ。回答をきっちり俺達のチャンネルの視聴者に伝えなければならない。

 幸いにして、今日は文化祭後の振替休日。この日を利用し、俺達は回答の報告動画を作成・投稿した。もちろん、俺達は今回の回答を受けてもまだ折れていないこと、引き続き活動を続けていき、アイドル甲子園男子の部を創設するために説得力のある実績を積み重ねる意思があることも明言した。


「この件はこれで終わり。切り替えていこうぜ。俺、まだ作りたい曲が色々あるんだ」


「なら俺も。試してみたいステップや振りが山ほどある」


「僕も同じだね~。作ってみたい衣装とかやってみたいメイクがあるんだよね~」


 というわけで、引き続きAwaiauluの活動に邁進していこうとしていた翌日の事だった。どうやらこの報告動画は方々に著しい影響を与えていたことが判明したのだ。


「朝日君、いる!?」


「え、筑波先輩!?」


 昼休み中、なんと筑波先輩が俺達の教室へ突然訪れたのだ。しかもかなり気が立っている様子だ。


「昨日の動画、見たわよ。アイドル甲子園男子の部の設立について、実行委員会から断られたんだって?」


「まぁ、事実です。でも活動して一年足らずで俺達の要求が通るとは思わなかったので、予想の範囲内だと思うんですが……」


「むしろ、突然送られてきた俺達の質問に回答してくれただけでも奇跡です。普通なら無視されていてもおかしくないですから」


「でも~、僕達もう諦めたわけじゃありませんから~。また一年努力して、認めてもらうつもりです~」


 俺と蒼司が先輩の質問に答え、菜月が諦めたわけではないと補足する。だが、筑波先輩は納得していない様子だった。


「あなた達の気持ちはわかったわ。けど、私は納得できない。あなた達Awaiauluの腕前はアイドル甲子園出場校に引けを取らないし、事実ライブを見た観客の感想はほぼ好意的。投稿したMVだってどれも万越えの再生回数を叩き出している。客観的に見ても、活動歴の短さなんて問題無いほどの実績があるの。

 だから、男子の部を設立したからといってアイドル甲子園の看板に傷が付くなんてことも無いと証明できているはずよ」


「う……」


 筑波先輩の言葉に、俺達は何も言えなくなる。確かにAwaiauluの実績は申し分ない。だが、それがアイドル甲子園の看板に傷を付けるかと言われれば、それは違うと俺は思っている。

 しかし、この話には続きがある。


「でも……その……ね」


「はい……?」


「あの動画を見てから、男子の部創設を推す声が増えているのよ」


「……へ?」


 Awaiauluが活動するようになって、一年も経っていない。そんな状況なのに男子の部の新設を推す声が上がっている……?

 念のため昨日投稿した実行委員会からの返答の報告動画のコメント欄を見てみると、確かに男子の部創設を希望する声が多い。


『歌やダンスがうまい男性アイドルなら、是非とも見てみたい』


『男性アイドルには男性アイドルの魅力がある』


『アイドル甲子園に出場したい男子が友達にいるけど、その人のためにも頑張って欲しい』


 など、肯定的な意見や応援のメッセージが多数を占めている。


「これを根拠に、私達は交渉をするつもりよ」


「交渉って……?」


「前年度のアイドル甲子園優勝者は、開会式で優勝旗返還とか色々役割を与えられるのよ。だから実行委員会と直接打ち合わせする機会がある。そこで直談判するつもりよ」


「直談判って……そんな簡単に話が進むんですか?」


「わからない。でも、このまま引き下がるわけにはいかないわ」


 筑波先輩は本気だ。そして本気でアイドル甲子園の男子の部創設を推し進めようとしている。


「実行委員会との打ち合わせは来週よ。それまで朝日君達は朗報を待っていて」


 そう言い残し、筑波先輩は立ち去っていった。

 


 

~Glorious Tail side~


「――以上で、開会式の段取りについて説明を終わります。何か質問はありますか?」


「いえ、ありません。大丈夫です」


 一週間後。朱音、藍花、月華のGlorious Tailのメンバー三人はアイドル甲子園実行委員会の事務所にある会議室にいた。アイドル甲子園の開会式について打ち合わせをするためである。


「では、これでアイドル甲子園開会式の打ち合わせを終わります。最後に何かあればどうぞ。開会式以外のことでも結構ですよ」


「では、お言葉に甘えて」


 朱音が手を挙げる。


「先日、実行委員会の方に公開質問が届きましたね。『アイドル甲子園男子の部を設立する予定はありますか』と」


「はい、ありましたね。しかしすでに男子の部を設立する考えは無いと返事を送ったはずですが」


「もっと詳しい事を知りたいです。なぜ男子の部の設立をしないのかという結論に至った経緯を、詳しく」


「経緯も何も、男子でアイドル甲子園を夢見ているなんて話は聞いた事がありませんし……」


 その一言に、Glorious Tailの三人はキレてしまった。


「おかしいですよ、その返答は。少なくとも一組、アイドル甲子園を夢見ている男子ユニットを知っています」


「しかも……かなり話題になっている……」


「動画再生数も毎回数万は稼いでるしー、ライブに出ても大盛り上がりでしたよー?」


「い、いや……しかし……」


 三人の剣幕に、回答をしていた委員の一人はたじろいでしまう。

 場の空気が悪くなる中、ある人物が口を開いた。


「スポンサー、ですよ」


「委員長……」


 口を開いたのは、いわゆるお誕生日席に座っている50代の女性。その人こそ、アイドル甲子園実行委員長の神尾かみお 恵子けいこであった。

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