カレーとディスコ

 曲と振り付けが完成した後、俺達四人は蒼司の家のダンススタジオを中心にレッスンを開始した。時々ボーカルをメインにレッスンするときは俺の家、衣装合わせをする時は菜月の家に行ったりもした。

 そして迎えた学園祭当日。


「みんな、準備はいいか?」


「ああ。いつでもスイッチは入れられるぞ」


「メイクもヘアスタイルもバッチリだよ~」


「衣装も問題無いわ。全力で動いても問題なしよ」


「よし。それじゃあ」


 俺はジュンケルを飲み干し、楽屋を出てアイドル棟のステージ裏へと向かった。



 

~Glorious Tail side~

 

 今回もGlorious Tailの三人は、ステージ裏でAwaiauluを待ち構えていた。今回はそれに加え、期待の後輩である小日向つむぎも迎えることになっているが。


「おや、来たみたいね。衣装は……サフラン色の料理服みたいだけど……」


「料理をテーマに曲を作ってきたのでこういう衣装になったんですよ、筑波先輩」


「なるほど。それは楽しみね。ところで……」


 紅太と言葉を交わした朱音は、つむぎへと目を向けた。


「Awaiauluの活動はどうだった、小日向さん?」


「曲やダンスの雰囲気が違うだけで活動内容はあたし達と似たような物だと思っていましたけど、実際はかなり違っていました。いい刺激になりました」


「ならよかった。では最後の仕上げよ。学んだことをステージで思いっきりぶつけて、その成果を思う存分示しなさい」


「わかりました」


 そうしてAwaiaulu+αの四人は、ステージへ登っていった。

 ステージの天井からはミラーボール、背後のモニターにはジャガイモ、にんじん、タマネギ、牛肉などの食材が。そして流れる音楽は……。


「これ、ディスコ!?」


「料理テーマでディスコ……想像できない……」


「あ、モニターにタイトルが出てきたよー。『カレー・ディスコテーク』だってー」


 前奏が終わり、歌が始まる。初の男女合同曲ではあるが、キーの違いは一切問題無く、Awaiauluのメンバーとつむぎの歌唱力の高さもあって音程もぴったりと合っていた。

 ダンスも速いテンポに合わせ激し目だが、一切息切れすること無くキレのある踊りを見せる。


 そんな高い技術を見せつける四人だが、最もインパクトが強い部分がある。


「なんか……カレーの作り方をそのまま歌詞にしてないかしら……?」


「なんでこんな歌詞にしようと思ったのか……謎だ……」


「でもー、不思議と曲の完成度は高いんだよねー」


 『カレー・ディスコテーク』は歌詞に何か深い意味があるわけでは無く、一曲かけてカレーの作り方を説明しているだけ。強い思いも無ければ、ストーリーがあるわけでもない。

 なのに歌もダンスも完成度が高く、つい見入ってしまう魔力がこの曲にはある。


「藍花、月華。例えば100メートル走で一位同着が二人居たとするわね。一人が10キロのおもりを付けていたとしたら、どう思う?」


「い、いきなりだな……」


「まぁー、おもりを付けていた方がすごいなーとは思うけどー」


「そうね。今のあの四人は、正におもりを付けて一位になったスプリンターと同じなのよ」


 本来、歌詞も曲の見所の1つであるはずだ。だが『カレー・ディスコテーク』はひたすらカレーの作り方を(言葉の使い方を工夫しているものの)説明しているだけだ。

 曲の強みを1つ潰しているはずなのに、魅力的に感じさせるのはAwaiauluとつむぎの凄みを実感してしまう。


 『カレー・ディスコテーク』も終盤、クライマックスとなった。


『おいしいおいしい、カレーの完成!!』


 皿を差し出すようなポーズを決め、曲は終わった。


「……終わったわね」


「うん……。小日向さんも、かなり成長したと思う……」


「あと心配なのはー、あのことだよねー」


 このライブで、Awaiauluは改めて技術の高さを見せつけてくれた。つむぎも大きな成長を見せてくれた。

 だがGlorious Tailの三人は、ある1つの懸念がくすぶっているままだった。



 

~紅太side~


 学園祭のライブは大成功だった。観客の反応も上々。小日向さんも俺達と曲を歌ったことで成長した実感が得られたらしい。

 そんなライブの余韻に浸りながら帰宅した。そして自分のPCを立ち上げると、一通のメールの着信通知が表示された。


「これは……ああ、俺達の質問に答えてくれたんだな」


 メールは定型的な挨拶の文章が多かったが、要約するとこうだ。


『現在、当委員会では男子の部を創設する構想や計画は一切ありません。

 アイドル甲子園実行委員会』

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