問い合わせと文化祭ライブ
夏休みが終わり、新学期が始まった。
「9月に入ったからさ、そろそろ問い合わせようと思うんだ」
「ああ、逆算すれば今月のはじめに問い合わせるべきだな」
「公開質問するんだよね~?」
そう。俺達はとうとう、アイドル甲子園運営委員会に質問をするのだ。『男子の部を設立する予定はありますか』と。
予選が始まるのが11月。逆算すれば今月の初めに問い合わせておけば、運営委員会から何らかの返事がもらえるはずだ。
さらに、この質問は公開質問にする。自分たちのチャンネルで質問内容を公開し、回答も公開するつもりだ。
そもそも俺達は、アイドル甲子園で男子の部を設立してもらうために活動してきた。『男子もこんな素晴らしいパフォーマンスが出来るんだ』ということをアピールし、広く世の中の支持を集めて運営を動かそうとしているのだ。
そういう活動をしているからこそ、公開質問は必須だと考えたのだ。
それはそれとして、もう1つ俺達に案件が来ている。
「筑波先輩から呼び出されている。多分、文化祭の事だと思うけど……」
「ああ。そういえばこの学校は9月開催だったな」
雲鳥学園の文化祭は9月に行われる。三連休が2回あるので、スケジュールを付けやすいかららしい。
そしてもちろん、アイドル部も文化祭でライブを行う。おそらく筑波先輩は文化祭の話をするつもりなのだろう。
そういうわけで俺達はアイドル部の会議室に赴いたわけだが……。
「あれ、小日向さんもいるんだ」
「そうよ。あたしも先輩から『Awaiauluとの打ち合わせに参加しなさい』って言われたから」
小日向さんも呼び出されていた? 一体何のためにと疑問に思っていると、俺達を呼び出した張本人である筑波先輩が答えを言った。
「実は今回の文化祭、Awaiauluと小日向さんのタッグを組んだ合同曲を披露してもらおうと思って。もちろん、Awaiauluはアイドル部員ではないから、朝日君達がダメというならこの話は無かったことにするけど……」
「俺達は大丈夫ですが……」
「そうだね~。もちろん大丈夫だよ~」
「僕も、問題ありません」
全員が賛成する。が、それはそれとして聞きたいことがあった。
「ところで、なんで俺達と小日向さんの合同曲を披露させようとしたんですか?」
「理由は2つあるわ。1つは実力者同士のシナジーを見たかったから。高い技術と発想力を持つAwaiauluとアイドル部一年でナンバーワンの実力を持つ小日向さん、その二組が合わさったらどうなるか興味が湧いたの。
そしてもう1つの理由は、小日向さんの成長のため」
「成長、ですか?」
「そう。本格的にアイドル部員として活動すると、殻にこもりがちになっちゃうのよね。ユニットを組むとユニット内で凝り固まってしまうし、ソロならなおさら。つむぎちゃんはソロで活動しているから、余計に凝り固まってしまうのよ。
そうならないように他校のライブに参加させたりしているけど、どうしても限界がある。だから、明らかにつむぎちゃんと毛色が違って実力があるAwaiauluと合同でパフォーマンスしてもらおうと思ったの」
なるほど、と俺達は納得する。
「この話、つむぎちゃんは既に承諾済みだから、うちのつむぎちゃんをよろしくね」
「はい」
「は~い」
「わかりました」
その後、ライブの持ち時間やセトリについて教えてもらい、会議は終了した。
会議終了後、俺の家でどんな楽曲にするか相談することにした。ただ、今回は小日向さんもいるわけで。
「え、あたし男子の家に上がるなんて初めてなんだけど……」
「そっか、小日向さんは俺の家のこと知らないんだっけ。まぁ、女子がいきなりやって来ても大丈夫な家だよ」
俺の家に到着すると、皆を家に入れる。もちろん、スタジオのほうだ。
「あんたの家、音楽教室やってたのね」
「まぁ、そうだね」
「ちなみに、俺の家はダンス教室だ」
「僕の家は服飾店だよ~」
俺達の家の話をすると、小日向さんは驚いていた。
「……なるほど。あんたたちの高い技術の秘密が少しわかった気がするわ。みんな、小さい時からアイドルに必要な素養を磨ける環境にいたのね」
「まぁ、そんな感じ」
そして俺達は相談を開始する。まずは曲のテーマだが……。
「とりあえず、文化祭の催しの1つとしてライブがあるわけだから、文化祭にふさわしい曲であるべきね。あたしの意見はそれだけよ」
「え!? 小日向さんはもっと注文をつけてくると思ってたけど……」
「あんた、あたしのことなんだと思ってたのよ。いい?筑波先輩はあたしにAwaiauluの色を学んでほしいと思ったからあんたたちと合同で歌わせようとしているの。なのにあたしがあれこれ注文付けたら、学ぶべきAwaiauluの色が薄れちゃうでしょ」
「それもそうか……」
小日向さんの言い分に納得した俺たちは、文化祭らしい要素について色々話し合った。
その中で、菜月が気になることを言った。
「そういえば~、うちの学校って料理系の出し物に制限があるんだっけ~。どうしてだろうね~?」
「ああ、それは調理器具を動かす発電機に限りがあるかららしいな。それと過去の反省があるらしい。昔の学園祭で、料理系の出し物ばかりになりかけたことがあって、さながら食い倒れのようになってしまって文化祭の面白さを損なう危惧が生じたからだとか。
……まぁ、文化祭といえば料理系の出し物みたいな図式が根強くあるから、みんなやりたくなるなる気持ちはわかるが……」
菜月と蒼司の会話を聞いた俺は、1つのアイディアを思いついた。
「料理の作り方を歌にしよう」
「歌にする? ただの料理の作り方を?」
紅太のアイディアに、蒼司が疑問を呈した。
「昔のアニメの主題歌で、コロッケの作り方をそのまま歌にしたものがあるんだ。その筋では結構有名な歌らしいんだけど、そういう前例があるから不可能では無いと思う」
「なるほどな。紅太が言うんなら出来るんだろう」
「僕は最初から紅太君を信じてるよ~」
蒼司と菜月から理解が得られたが、1つ決めなければならないことがある。
「あとは、どんな料理をテーマにするかだけど……」
それから侃々諤々の議論を重ね、テーマが決まった。
「それじゃあ、歌うテーマは『カレー』に決定!」
カレーに決まった理由は、大勢集まってワイワイ作って食べるのにふさわしい料理だと思ったからである。
後はいつもの通り、僕が曲を作った後に蒼司が振り付け、菜月が衣装を作製するという流れを確認し今日は解散となった。
みんなが帰る前、小日向さんが俺に話しかけてきた。
「あたし達の新曲打ち合わせとは全然違うわね。あたし達は作曲担当、作詞担当、編曲担当、振り付け担当、衣装担当がそれぞれ最良だと思う意見を言うんだけど……しょっちゅうぶつかり合ってるわ。まぁ、なんだかんだ期限までに曲は出来るんだけどね」
「そっか。まぁ俺達は昔から知ってる友達同士だから、お互いの考えていることや出来る範囲をある程度知っているしね。でも、ぶつかり合うからこそいい曲が出来たりするんじゃないか?」
「そうかもね。それじゃ、あたしももう帰るわ。曲出来たら早く教えなさいよ」
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