各陣営、ライブ前夜

 話は数日前に遡る。

 その時、俺は自室で曲のインスピレーションを得る活動をしていた。インスピレーションを得るには様々な音楽を聴く、情報や知識を収集するなどがあるが、最近は生成AIに適当に作らせた音楽を聴くのがマイブームだ。

 そんな時、俺の母さんがやって来た。


「あら紅太。今日も曲を作ってるの?」


「いや、インスピレーション集め。ネタ集めとも言う」


「そう、熱心ね」


 そういえば、と母さんが切り出した。


「お母さん思ったんだけど、紅太の曲ってどれも良い曲なんだけど……」


「なんだけど?」


「少し真面目すぎない?」


 言われてみると、そうかも知れない。過去の作品はかっこよさを軸にしている場合が多く、必ずどこかにかっこいい感じを含めている。

 そうなると必然的に、曲も真面目な物になる。


「思うんだけど、真面目一辺倒じゃいつか行き詰まるわよ。もっとおふざけっていうか、ドタバタっていうか、そんな感じの曲も一度は作るべきだと思うわ」


「おふざけの曲を……ねぇ……。例えば?」


「例えば、そうねぇ……電波ソング、とか?」



 

「――っていうことがあった」


 俺は二人にこれまでの経緯を話した。菜月はいつも通り楽しそうに聞き、蒼司は呆気にとられたような顔をして話を聞いている。


「電波ソング……って、あの電波ソングか?」


「多分その電波ソングだよ」


 蒼司の問いに俺が答える。


「なるほどな……」


「多分、振り付けにとんでもない苦労をかけると思うんだけど……」


「いや、俺は構わない。やってくれ」


 蒼司は即答した。


「僕も~。面白そうだからやってみたい~」


 菜月も乗り気だ。


「じゃあ決まりだな」


 こうして俺達Awaiauluは、『落語』をテーマにした電波ソングで勝負をすることになった。



 

~雪月花side~

 

「調子はどう、詩歩?」


「かなり良いよ。ライブには絶好調を迎えそう」


 その頃、雪月花の麻衣と詩歩はライブに向けて調整を行っている真っ只中であった。


「それは良かった。期待しているよ」


「ありがとう、麻衣。それにしても、雲鳥学園の人達、よくあたし達を招いて『和』をライブのテーマにしようとしたよね」


「そうね。ウチらがどれだけ『和』に心血を注いできたか、知らないわけではないでしょうに」


 雪月花が結成された経緯を語るには、麻衣の小学生時代まで話を遡らなければならない。

 当時、麻衣は日舞――つまり日本舞踊を習っており、熱中していた。一生辞めない、生涯をかけて修行し尽くすと誓っていた。

 

 ところが、中学三年生に進級するタイミングで親の都合により転校、現在の住居に引っ越す。

 そして引っ越し先には、日舞を習える環境が無かった。

 大好きな日舞が出来ない毎日にくすぶっていた麻衣だったが、ある一人の人物が声をかけた。


『あなた、日舞やってたんだって? 興味あるから教えてよ』


 声をかけてきた人物こそ、詩歩だった。詩歩は日本の伝統芸能に興味があったが、この街にはそれを習える環境がない。かろうじて詩歩の祖父母に和楽器の心得があったので習っていただけだが、本格的に習ったり発表したり出来る環境が無かったので不満に思っていた。

 似たような悩みを持つ二人はすぐに意気投合。互いに持っている技術を教え合う間柄になった。


 中学卒業後は地元の高校、花山高校に進学。そこで伝統芸能経験者であることを買われ、アイドル部からスカウトを受けた。


『アイドル部、か。まさかウチ達が入部するなんて考えたことも無かった』


『そうだね。でも、あたしはこの道も悪くないと思うよ。だって日舞とか和楽器の経験が生かせるし、その気になれば好きなだけ和の世界を表現できる』


 こうして二人はユニット『雪月花』を結成。メキメキと実力を伸ばしていき、全国的に無名だった花山高校でアイドル甲子園初出場、そして上位入賞という快挙を成し遂げた。

 この頃にはもうアイドル甲子園は二人にとってただの舞台では無く、共に学んだ日舞や和楽器から地続きになっている、もう1つの生き甲斐になっていた。

 だからこそ他人に負けたくは無いし、ましてや自分たちのホームグラウンドである『和』のテーマで負けるわけにはいかないのだ。


「まぁでも、油断は禁物ね。なにせ相手は去年のアイドル甲子園の覇者、Glorious Tail。しかも新入部員の中にも順調に実力が上がっている子もいるらしいし」


「それとAwaiaulu。男子でもアイドル甲子園に出場するために活動しているらしいけど、その実力は驚異だね。彼らが女子だったら、確実にGlorious Tailと同じ……いや、ひょっとしたらそれ以上の脅威だった」


「そうね。……さぁ、もっとブラッシュアップをするわよ。ライブまでに最高の形に仕上げなくては」


「もちろん!」


 ビデオカメラの映像と動きの見直しの作業は、夜遅くまで繰り返された――。

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