和風アイドルライブ

 夏休みもあと二週間で終わる頃、俺達は筑波先輩に呼び出された。夏休み最後の週に行うライブについての打ち合わせに誘われたのだ。


「急に呼び出して悪いわね」


「いえ。ライブの誘いであれば俺達はすぐ飛んで来ますよ」


 紅太の答えに筑波先輩は苦笑した。


「他のメンバーにも伝えておくわ。さて、今日は来週行われる『ラストサマーライブ』の打ち合わせよ」


 『ラストサマーライブ』とは、雲鳥学園アイドル部が行う夏休み恒例のライブのことだ。『ラストサマー』の名の通り夏休みラスト一週間を切った頃に行われ、夏休み最後の思い出を作るのだ。


「本当は紅太君達も雲鳥学園生だから他の部員と一緒の打ち合わせに参加するべきなんだけど、部員じゃないからゲスト向けの打ち合わせに参加してもらうことになったの。ごめんなさいね」


「いえ、別に構いませんよ。でも、前回ここで行ったライブは普通に部員と一緒の会議に参加しましたよね?」


「それは私達だけで行う内々のライブだったから、別に一緒の会議にしちゃってもいいかなって。でも、今回はゲストを呼ぶライブだからゲスト用の打ち合わせに参加させるべきだって意見が強くて……」


 なるほど。内々のライブだったからこそ、別に部員と一緒でなくても良いと周りは思っていた訳か。でも一応『部外の人』がゲスト扱いになるから、今回は一緒に打ち合わせをする必要があるのか。


「さて、そろそろ約束の時間ね。県外の人だからオンラインで繋ぐわよ」


 筑波先輩はそう言うと、パソコンを操作し始めた。すると、会議室のスクリーンに二人の女子学生の姿が映し出される。


「あー、こちらの音は聞こえるかしら?映像は乱れてない?」


『はい、大丈夫です』


「良かった。じゃあ自己紹介をしてもらえる?」


『わかりました。花山高校アイドル部、『雪月花』メンバーの西垣 麻衣です』


『同じく『雪月花』メンバーの三条 詩歩です。よろしくおねがいします』


 二人から自己紹介を受けた俺達だが、その名前に驚愕してしまった。


「紅太、知ってるのか?」


「知ってるよ、蒼司。『雪月花』って言えば、去年のアイドル甲子園で大金星を上げて有名になったユニットだ」


「それ、覚えてるかも~。ニュースで話題になってたし~」


 花山高校は、雲鳥学園の隣県にある高校だ。なお、この前訪れた宝泉寺女学院のある県とは異なる県だ。

 花山高校自体はアイドル部はあるものの、毎年予選で県内準位のギリギリ上位~中位をうろちょろする、まぁ平凡な感じの高校だ。


 ところが去年にアイドル甲子園初出場。それどころかいきなり上位に食い込んだ。全国大会での上位なのだから今までの成績からしたら考えられないくらいの大躍進だ。

 この大活躍により『シンデレラストーリー』だとニュースに取り上げられたのだが、その立役者になったのが彼女たち『雪月花』なのだ。


「では早速だけど、今度のライブについての説明を始めるわね」


『お願いします』


 打ち合わせの内容は、今まで参加してきたライブと変わりは無い。何分以内でパフォーマンスを行うかとか、セトリのどの辺りで出番が来るのかとか。

 だが、それらは今までのライブと大体同じだ。俺達の関心事は、今回のライブのテーマについて。


「今回のライブのテーマは『和』よ。和を感じさせる曲やパフォーマンスを期待しているわ」


『少々よろしいでしょうか?』


 ここで、画面の向こうの西垣さんが手を挙げた。

 

「何かしら?」


『本当にそのテーマでよろしいのでしょうか? 雪月花の特性を考えれば、かなり悪手なテーマだと思いますが』


 雪月花のユニットについて少しでも知っていればこの発言は理解できる。雪月花は和を前面に押し出したユニットなのだ。

 つまり雪月花が出演するとわかっていながら和をテーマにすると言うことは、ライバルが有利になる状況を提供しているのと同じなのだ。


「そうね。そこは否定しないわ」


『ではどうして?』


「和のテーマでなければ、あなた達の真価がわからないでしょう?それに、私達はそれでも勝算があるし、少なくとも互角以上の勝負が出来るわ。もちろん、ここに同席しているAwaiauluも同じよ」


「え、俺達も……?」


「そうよ。もちろんあなた達だけではないけどね」


『なるほど。そういうことでしたら、私達も全力で受けて立ちましょう』


 その後、細かい部分をすりあわせて打ち合わせは終了した。


「お疲れさま。三人とも、今日はありがとね」


「いえ。俺達も有意義な打ち合わせでした」


「そう言ってもらえると助かるわ。本番まであまり時間が無いけど、今度のステージも楽しみにしているわね」


 二言、三言筑波先輩と言葉を交わした後、俺達は学校を後にした。

 



 帰り道、俺は蒼司と菜月に自分の家に寄るよう頼んだ。


「紅太、なんで家に寄ったんだ?」


「あー……ちょっと話したいことがあって……」


「いいよ~。とことん付き合うから~」


 俺は自分の家のスタジオに二人を招き入れると、口を開いた。


「次のライブだけど、さっき打ち合わせしながらある程度曲のイメージを固めててさ。『落語』のイメージで行こうと思う」


「落語か。確かに『和』をテーマにしたイメージではあるけど、渋いな」蒼司は言った。


「まぁね。もちろん衣装は落語家っぽい感じで。菜月、頼める?」「は~い。僕は大丈夫だよ~」


 菜月に関しては、難色を示されるとは思っていなかった。早着替えの技術を習得した菜月なら、どんな衣装が着ても問題無く製作してくれるだろう。


「蒼司、ダンスについてなんだけど、まず座りながら踊るようにしたい。『アウアリイ』みたいにイスに座るんじゃなく、正座で。落語風の曲だからね」


「ああ、問題無い。少々変わっているが必ず仕上げてみせる」蒼司は頷きながら承諾した。


「ありがとう。それでもう1つ注文を付けるんだけど、いいかな?」


「なんだ?」


 俺は、意を決してこう言い放った。


「曲風なんだけど……電波ソングにしようと思うんだよね」

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