強いプリンセス
Awaiauluの三人がステージに上がると同時に、優雅なBGMが流れた。三人は貴族令嬢同士のティータイムを楽しむかのような仕草をしている。
歌が始まると、完璧な女声で歌い上げた。内容は貴族らしい高貴な世間話。そして結婚の話。どうやら三人が演じる貴族令嬢は、家や政治的思惑で結婚を控えている身らしく、不安はあれど努めて明るく話している感じだ。
ところが、曲の中頃になると曲調が一変。非常にシリアスな物になる。
歌詞も不穏な物になっていき、国に革命が起こる。三人の令嬢もその荒波に飲まれてしまう。家の男達は皆死に絶え、それぞれの家には令嬢一人だけ残されてしまう。
ここで令嬢達は覚悟を決める。もう家や政治には振り回されない。自分の未来は自分で切り開くのだと。
このタイミングで三人は衣装の腰に仕込まれた仕掛けを作動させる。すると今までの優雅なドレスから一変、軍服に近い凜々しい衣装に早変わりし、ステージの小道具に隠れていた剣を拾い上げ帯刀する。
そう、菜月が習得した早着替えの技術をこのシーンで活用したのだ。
曲はいよいよクライマックスを迎える。三人の令嬢は抜刀し、革命軍達に立ち向かう。ここで殺陣の相手を務めるエキストラがいれば映えるシーンが撮れるだろうが、残念ながらそこまで準備する余力が無かったので素振りだ。
だが、それでも倒す敵が居ると錯覚するほど真に迫る素振りだった。
そしてラスト、三人の令嬢がポーズを決める。その勇ましい姿に観客や一部の出演者から大きな歓声が上がった。
「これは驚いた……。衣装やメイクだけでなく仕草や声も完璧に美少女を演じたのにも驚かされたが、可憐な令嬢だけでなく凜々しい令嬢も演じることが出来るとは……。アイドルというのは、つくづく奥が深い……」
杏花はただ呆ける事しか出来なかった。その傍らでは、いつの間にか楽屋から戻ってきた部員達も三人のライブに酔いしれている。
そして曲が終わり、Awaiauluの三人はステージ裏に戻って来た。
「貝吹さん。私達のステージ、いかがでした?」
「ああ、すごかった。本物の令嬢かのように美しかったし、殺陣も物凄く本格的だった」
「……ありがとうございます!」
紅太は心からの感想を述べると、それを聞いた三人はとても嬉しそうに笑った。その笑顔を見て紅太は思った。
(……この笑顔は、作り物じゃないな。心の底から喜んでいる時の顔だ)
「それと、私もキミ達のステージを見て気付いたことがあった。今まで私は、プリンセスは守られる存在だから可愛い、おとぎ話の姫が王子に助けられてハッピーエンドというのが王道だと思っていた。けど、キミ達のステージを見て違う事に気付いたんだ」
「どう違ったの~?」
菜月は興味深そうに聞く。
「それはね……プリンセスだって戦うことが出来るし、自分の運命を切り開く事が出来るって事さ! 私は今までそんな簡単な事に気付かなかったよ……。
今回のライブを機に、私達は新境地に足を踏み入れることが出来そうだ」
「それは良かったです! 私達も、貝吹さんとライブのお話が出来て楽しかったです」
紅太の感想を聞くと、杏花は嬉しそうに笑った。
「ありがとう。また機会があればよろしくね」
~紅太side~
宝泉寺女学院のライブが終わった後の話。
ライブ全体を通して見れば、成功と言って良いだろう。ただこれは当たり前の結果でもある。なんせ宝泉寺のアイドル部は大勢の固定ファンがいるほど有名だし、盛り上がらないはずがないのだ。
では、俺達Awaiauluがゲスト出演したステージはどうだったかというと、大成功と言って良い。観客の反応が物語っている。
「え、あんな子達、宝泉寺にいたか?」
「でもモニターには『ゲスト:Awaiaulu』って書いてあるぞ。確かAwaiauluって男子ユニットだったろ?」
「でもあの仕草、メイク、声……どう考えても女子なんだが……?」
とまぁ最初は俺達の姿や声に戸惑う声が多かったように思う。
だが曲が転調し軍服風衣装に早着替えしてから、歓声が変わった。
「うぉ、かっけぇ……」
「衣装もかっこいいし、パフォーマンスもいいぞ!」
「もう男とか女とかどうでも良い!デカい興奮の前には些末なことだ!!」
そして後日。俺達のステージのシーンを編集してMVとしてAwaiauluの動画チャンネルに上げたところ、
『早着替えとか技術高いな!』
『女装も女子の演技も自然だな。後半の所なんて『女子っぽい男子』じゃなくて『男子っぽい女子』の声になっているし』
『脳がバグるな! だがそれがイイ!!』
と、思いのほか好評価なコメントばかりであった。そして元々の知名度のお陰も相まってか、チャンネル登録者も大幅に増加したのだ。
ちなみに、宝泉寺のステージでは曲名を紹介する機会に恵まれなかったため、動画チャンネルに投稿するタイミングで曲名の発表となった。
曲名は『ストロング・プリンセス』。可憐な令嬢が強い女性に成長する様を表現した曲にふさわしい、ド直球なタイトルだ。
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