バードクラスの実力

 ライブ当日。俺達は二時間近く電車に揺られ、ライブ会場である宝泉寺女学院へやってきた。

 校門近くにある守衛所でライブに参加することを伝えると、会場まで案内してくれた。

 宝泉寺には『文化棟』という文化部のための棟があり、その中に『音楽ホール』と言う音楽や劇を行うための空間がある。そこが今回のライブ会場だ。


「ようこそ宝泉寺女学院へ。待っていたよ、Awaiauluのみんな」


 音楽ホールにいたのは、宝泉寺女学院アイドル部部長、貝吹 杏花さんだ。その後ろには、他の部員も控えている。


「今日はよろしくお願いします」


「うん。こちらこそよろしくね。さぁ、キミ達の楽屋に案内しよう。私が案内したいところだけど、残念ながら部長としてやることが色々あってね……。部員に案内させるから、ライブ開始までゆっくりしていると良いよ。長い移動で疲れているだろうからね」


 杏花さんはそう言うと、自分の周りにいた部員を連れてどこかへ歩いて行ってしまった。

 俺達は部員の一人に連れられ、楽屋に案内された。音楽ホールの裏側に楽屋スペースがあり、その一室が俺達にあてがわれた楽屋だ。

 中に入ると、そこにはプロのアーティストが使うような化粧台の他にロッカーやトイレ・給湯室もあり、簡易的ではあるが宿直室のような作りになっていた。もちろん家庭用としては大型のモニターもあり、舞台の様子をリアルタイムで見られるようになっている。


「この通り、控室は自由に使っていいからね」


 そう言い残し、案内してくれた部員さんは去っていった。


 俺達が衣装への着替えやメイクを行いライブへの準備が終わる頃、宝泉寺女学院のライブがスタートした。

 ライブの雰囲気は、事前に告知されていたテーマ『王子様とプリンセス』の通り、ファンタジー色が強い楽曲や演出が多かった。王子さまとプリンセスが出てくるおとぎ話をモチーフにした、歌あり踊りありのステージだった。

 そのどれもが本格的な内容であり、観客である俺達を魅了していった。

 そしてついに、おそらく宝泉寺にとってハイライトとなる楽曲が登場した。


「出てきたな……貝吹さん……」


 貝吹さん率いる『バードクラス』の出番だ。


「このイントロ~、『マスカレード・ロマンス』だね~」


 菜月がイントロを聴いただけでどんな楽曲か的中させた。


 『マスカレード・ロマンス』。弱小貴族の令嬢がたまたま身分を隠して参加する仮面舞踏会に招待され、そこで一人の男性と恋に落ちる。最後にその男性はこの国の王子だった、というストーリーを持たせたファンタジーミュージカル調の楽曲だ。

 この楽曲に魅力は、貝吹さん演じる王子のかっこいい台詞や仕草、そして乙女心を狙い撃ちにする歌声だろう。王子の歌声に合わせ、五人が華麗なステップでステージを舞う。


「これは……去年のアイドル甲子園で歌っていた時よりもクオリティが高くなっているね~」


 隣で見ていた菜月も感心しながらスクリーンに映し出されたライブ映像に見入っている。

 そんな中でも、貝吹さんの歌やダンスは観客を引き付けて離さない。

 いや、むしろ引き付け過ぎだ。会場にいるほとんどの人が貝吹さんに目を奪われている!


「これが……バードクラスのトップアイドルの実力か……!」


 俺は思わず感嘆の声を漏らす。


「だが、俺達も負けていない。紅太の曲と、俺のダンスと、菜月のこの新作衣装があれば十分に太刀打ちできる。そうだろ?」


「ああ……そうだったな、蒼司」


「負けていられないね~紅太くん!」


「ああ! 蒼司、菜月! Awaiauluのライブを始めるぞ!!」


 俺はジュンケルを一本飲み干すと、蒼司と菜月と共にステージ裏へ向かった。



 

~杏花side~


「そろそろAwaiauluの出番か……」


 杏花は自分の出番が終わったのにも関わらず、楽屋に戻らずステージ裏に留まっていた。出番前のAwaiauliuの姿を一目見たい、あわよくばいくつか言葉をかけて挑発してやろうと思っていたからだ。

 

 そしてついに、Awaiauluの出番がやってくる時を迎えた。

 ちょうどその時、ステージ裏に三人の出演者がやってきた。全員優雅なドレス姿で、メイクも上手い。誰が見ても美少女と言える三人だった。


「へぇ、あんな美しい女の子が出るんだ――いや待て」


 杏花は宝泉寺のアイドル部部長として、部員全員の顔は覚えている。どんな派手な衣装やメイクで雰囲気が変わっても見抜けるくらい覚えているのだ。

 だが、この三人は杏花の記憶にはいなかった。


「あの三人……見たことないぞ……。キミ達!」


 杏花はすぐさま三人の内の一人を捕まえて問いただす。


「私は宝泉寺女学院アイドル部の部長として所属ユニットや部員は全員覚えているつもりだけど……キミ達は一体誰なんだい?」


 そう尋ねると、紅髪の少女が反応した。


「あら、私達と挨拶を交わしたのにその言葉は傷つきます。ですが、お忘れというならもう一度。私達、『Awaiaulu』です」


 なんと、この三人の美少女は今日招待した『男子』ユニットのAwaiauluだったのだ! しかも完璧な女子の声で返答して見せた。

 予想外の展開に、杏花は思考が停止してしまう。


「私達は今日のライブに備えて色々と検討を重ねた結果、ちょっと変化球なプリンセスで行こうという意見で一致しました」


「もちろん、演出だけでなくレッスンも手を抜きませんでしたから」


「この衣装も~、ちょっとした仕掛けがあるんです~。楽しみにしてて下さいね~」


 最初に返答した紅太だけでなく、蒼司、菜月も完全な女子声で話した。初見でこの三人が男子であるとは誰も思わないだろう。

 そして固まったままの杏花を尻目に、三人はステージに上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る