王子様系アイドル
『Glorious Tailからの挑戦状』というテーマで行われたライブは無事終了。観客からの歓声も大きく、ライブの成功を喜ぶ声も聞こえていた。
俺達Awaiauluは、このライブで初披露した楽曲『駆け引きは対面で』を自分たちのチャンネルに上げるべく、俺達が出たステージの映像を編集してアップロードした。もちろん再生回数は上々で、コメントも好意的な物が多かった。
夏休みが少し過ぎて8月に入り始めた頃。俺のスマホにメッセージが届いた。送り主は筑波先輩だ。
『次のライブに相談したいことがある。明日学校に来れる?』
『はい。大丈夫です』
『相談したい内容については当日に話すよ。よろしく』
そして翌日。俺達三人はメッセージにあった通り学校へと向かった。指定された場所は、アイドル部専用のミーティングルームだ。
「あ、来た来たー。お疲れー」
「お疲れ様です。今日は千歳先輩だけですか?」
「そうそうー。朱音ちゃんも藍花ちゃんも、別の予定が入ってて忙しいんだよねー。だから今日はあたしがキミ達の担当なんだー」
ミーティングルームには筑波先輩……ではなく、千歳先輩が先に来ていた。他のメンバーが不在なためか、いつもより緩い感じだ。
「まあ座ってよー」
「あ、はい。失礼します」
俺達はミーティングルームに置かれた椅子に座った。パイプ椅子だが座り心地は悪くないし、クッションも敷いてあるからお尻の痛みを気にする必要は無いだろう。
「さっそくだけどー、Awaiauluのみんなは『宝泉寺女学院』って知ってるー?」
「あ、僕知ってますよ~。確か、隣の県の女子校で、アイドル部が強い学校の1つですよね~?」
答えたのは、菜月だった。確か宝泉寺女学院のアイドル部の特色は菜月の趣味にかなり合っていたようで、菜月は一瞬でお気に入りにしたんだっけ。
「うん、正解だよー。宝泉寺女学園はー、いわゆるお嬢様学校でありながら、アイドル部をとても大切にしているの。それでその宝泉寺女学院から連絡が来てー、8月中旬に行われるライブにAwaiauliuを招待できないかって聞いてきたんだー」
「ライブ……ですか?」
「そ。もちろん宝泉寺でライブをやるから、ルールとかはあっち側のやり方に則るのが条件だけど、参加してみる?」
宝泉寺は、アイドル部強豪校の1つ。しかも独特の世界観を持っているから、俺達にとってはプラスになることも多いだろう。それに菜月のお気に入りだしな。そんなわけで、俺達三人の意見は一致した。
「はい。ぜひ参加させて下さい!」
「オッケー。それじゃ、向こうには参加するって事で返事しとくねー。みんなは今週の金曜日にまたこの部屋に来てねー。リモートで説明するんだってー」
隣町であった銀月農業とは違い、宝泉寺は県をまたいでいる。そうそう気軽に行ける距離ではないから、リモートで説明を行うのは理にかなっているのだろう。
そして迎えた金曜日。俺達Awaiauluはミーティングルームに再び集まった。
「お待たせー。みんなそろってるねー」
今回も千歳先輩が一緒に居る。先輩リモート会議ソフトを起動すると、ミーティングルームのスクリーンに映ったのはボーイッシュで『王子様』を連想させるような女子生徒だった。
『やぁ、千歳さん。私の声が聞こえているかな?』
「聞こえてる聞こえてるー。貝吹クン久しぶりだねー。元気してたー?」
『ああ。私も部員も元気だよ。それにしても、こうして言葉を交わしたのは去年のアイドル甲子園以来かな? ああ、それでそこにいる三人の男の子が例の――』
「うん。この子達が今回宝泉寺女学院のライブに参加してくれるAwaiauluだよー」
『そうかい。初めまして、私は
彼女……貝吹さんは軽く自己紹介をすると、すぐに本題に入った。
『私達のライブに出演するためのルールだが、とりあえず決められた世界観を守るような曲、衣装、演出を心懸けてくれれば良い。まぁ、どの学校のライブも同じようなものだろうけどね』
まぁ、特に珍しいルールではないな。銀月農業の時は動物をテーマにした楽曲だったし。先月のライブも比較的縛りは緩やかだったとは言え、一応『Glorious Tailからの挑戦状』というテーマがあった。
世界観を守るという話題が出た瞬間、菜月が反応した。
「もしかして~、そのルール、『ファンタジー』だったりします~?」
『おや、鋭いね。もしかして私達のファンかな? 確かにテーマはファンタジーだが、必ず『王子様とプリンセス』のお話である事が条件だ。まぁ、王子様とプリンセスのどちらかが出てくる話でもいいよ」
「なるほど~。ありがとうございます~」
どうやら、このライブは菜月の趣味にかなり合っているようだ。
そして貝吹さんの話では、王子様とプリンセスの『お話』と言っていた。つまり、ストーリー仕立ての曲である事が条件か。
その後、細々とした細則を詰めた後、本日のアジェンダを消化し切った。
『それでは、当日まで楽しみにしているよ』
そんな貝吹さんの言葉と共にミーティングが終了となった。
「じゃあねー」
千歳先輩が手を振ると同時にミーティングが終了。俺達もこのままお開きになり帰宅するはずだったのだが……。
「紅太くん~、ちょっといい~?」
「どうした、菜月?」
「少しお話があるんだけど~、この後時間ある~?」
「ああ。いいぜ」
「やった~」
菜月から話があるって、珍しいな。
「実は~、僕、新しい衣装に挑戦したいんだ~。だから紅太くんには迷惑かけるかもしれないけど、僕の作りたい衣装を聞いてから曲を作ってくれないかな~?」
「別に構わないけど……急にどうしたんだ?」
「実は――」
少し前置きした後、菜月は事情を話し始めた。
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