それぞれの恋のギャンブル

 Glorious Tailのステージが始まってから何組か出演したが、やはり『ラブ・ホールデム』を意識してトランプとカジノを想起させるような曲が多かった。ただ似たようなテーマと曲調から少しでも個性を出そうとする努力が垣間見えていて、見ごたえがあるものだった。中にはトレーディングカードゲームで恋愛を例えている曲もあり、『そういう発想もあるのか』と驚かされた。


「あ、次は小日向さんだ」


「小日向さんはどんなステージをするんだろうね~?」


 そして小日向さんの出番となった。初めてもらったオリジナル曲、どんな曲になっているんだろう?


「小日向さんの衣装……なんか……」


「黒いな」


 小日向さんの衣装は、全体的に黒かった。格式高いカジノに入場できるような気品あるドレスだが、どこかダーティーさも感じられる。

 そして曲が始まった。モニターの下部には『ハートの21』と書かれていて、これが曲名のようだ。

 歌詞は『ラブ・ホールデム』と同じく恋愛をカードゲームに例えているが、例えているゲームはブラックジャックらしい。ブラックジャックはカードの合計が21になるよう目指すゲームだから、タイトルに『21』が入っているのか。


「なんだか、歌詞の雰囲気が黒いよね~。何でもアリみたいなさ~」


 菜月の言うとおり、『ハートの21』は腹黒さやダーティーさが窺える曲だ。なにせ『恋愛はルール無用、イカサマでもなんでもやってしまえ』みたいな趣旨の歌詞がよく出ているのだ。これが、小日向さんをはじめ作曲チームが出そうとした個性なんだろう。

 曲の長さはおよそ5分ほどだろうか。無事に小日向さんのステージが終了した。観客はあっけにとられていたようで動けずにいたが、一拍してものすごい拍手と歓声が巻き起こった。


「すごいな。今日一番の歓声じゃないか?」


「ああ。あれが小日向さんの本来の実力なのか……?」


「オリジナル曲をもらって、いよいよ本領発揮ってところかな~?」


 アイドル部員として活動当初から知っている身としては、この成長ぶりは驚いたし目を見張る。でも、怖じ気づく俺達じゃない。むしろ『俺達もやってやろうじゃ無いか』と気炎を上げていた。


「そろそろ出番かな。ステージ裏に行こう」


「ああ。あんなステージを見た後だ、一秒でも早くステージに立ちたくてしょうが無い」


「思いっきりパフォーマンスして、もっと盛り上げようね~」


 俺は持ち込んでいたジュンケルを飲み干すと、蒼司、菜月と共にステージ裏へ向かった。


 


~Glorious Tail side~


 小日向つむぎのステージを最後に、一旦MCに入った。MCを担当するのはもちろんGlorious Tailの三人だ。


「みんな、ありがとう。ここまで色々なステージを見せてもらったわ」


「みんなすごかった……。歌もダンスも、こだわりが感じられた……」


「あたし達が歌った『ラブ・ホールデム』に対抗する曲を考えて歌ってもらったわけだけどー、個性を出そうと頑張っていたよねー。あたし達もうれしくなっちゃったー!」


 一通り感想を述べた後、次の楽曲の紹介に移る。


「ライブも折り返しに来ているわけだけど、後半の最初はゲスト枠よ。そして今日の出演者の中で私達が最も注目しているユニット」


「アイドル甲子園への挑戦権を獲得しようと頑張っている男子達……」


「もうわかった人もいるんじゃないかなー? 今回も、アッと驚く新曲を持ってきたみたいだよー!」


「「「次は、この曲です!!」」」


 三人が声を合わせて宣言すると、ステージが暗転した。

 流れるBGMは中華風。スポットライトが紅太、蒼司、菜月の三人を照らし、Awaiaukuの新曲『駆け引きは対面トイメンで』がスタートする。

 天井から麻雀牌の装飾が降り、曲も盛り上がりを見せる。歌詞の内容は、恋の駆け引きを麻雀に例えた物だ。

 恋をギャンブルに例える点では『ラブ・ホールデム』や『ハートの21』と同じだが、歌詞に麻雀らしさが窺える。特に相手の捨て牌を自分の牌にして生かすことが出来る、麻雀の特徴的なルールを想起させる歌詞は秀逸だ。


 紅太達は牌を引き寄せたり切ったりしつつ、恋模様を歌い上げる。一人称の歌詞だから、自分達を重ねたファンも多いだろう。特に 今回は『駆け引き』をテーマにしているから猶更だ。

 そしてサビに入る前に全員で『切るぞ!』の声を上げ、振り付けと表情を変化させる。間奏に入ると、三人はそれぞれの持ち場に散らばった。

 蒼司が持った牌には紅太、菜月が手にした牌には蒼司、そして紅太が捨てた牌は菜月に引き寄せられた!


「「「麻雀は運じゃない、技術で勝つんだ!!」」」


 三人の声が重なると同時に、曲も終了。ステージにスモークが焚かれ、暗転した。


「三人とも、お疲れ様」


「お疲れ様です」


 Awaiauluの三人がステージ裏へ退場すると、そこでGlorious Tailの三人が出迎えていた。どうやらステージ裏にずっと待機して見ていてくれたらしい。


「みんなすごかったわね。特に発想がすごかった」


「他は『ラブ・ホールデム』を意識しすぎてトランプゲームから離れられなかったのに……Awaiauluは麻雀の発想があった……」


「モチーフも曲調も違うからー、目立つとか爪痕を残すって意味だと大成功だよねー」


「あはは、そういう風に言ってもらえると感激です」


 そして何度か言葉を交わした後、Awaiauluは楽屋に戻った。その際、朱音がボソッとつぶやいた。


「やっぱり、私達のライバルはAwaiauluしかありえないわね」


 その頃、Awaiauluが楽屋に戻ったタイミングである人物が彼らの楽屋を訪ねて来た。


「失礼するわ」


「あ、小日向さん」


 楽屋を訪ねてきたのは、Awaiauluと何度も共演し切磋琢磨してきた小日向つむぎだった。


「ステージ見たわよ。『駆け引きは対面で』、さっきの曲ね」


「ああ。どうだった?」


「素晴らしかったわ。とても発想が奇抜だったし、良い出来だと思ったわ。それに発想だけじゃない、曲もダンスも衣装も、いい発想を潰さないだけの完成度だった」


 どうやら小日向さんも俺達の曲と踊りを評価してくれているようだ。素直にうれしい。


「まぁ、今回の俺達の曲は、蒼司が色々と頑張ってくれたんだ。馴れない中華風の曲に合わせるために、資料を色々調べてくれたそうだから」


「ああ。振り付けにかなり苦労したが、良い経験になった。俺自身、成長できたと思っている」


 蒼司はどうやら苦労したことは否定しないようで、憎まれ口のような口調になっている。ただこれも彼の照れ隠しだということは紅太達がしっかりと理解していた。


「小日向さんこそ。比較的ルールがわかりやすくて馴染みがあるブラックジャックをモチーフにしてイカサマでも何でもアリだみたいな曲にしたの、強烈で印象に残るよ」


「そう? それなら作ったかいがあったわね。この曲には結構自信があったのよ」


 どうやら小日向さんも自身の曲にかなり自信を持っていたらしい。


「でもあんた達の曲聴いたら、もっとやりようはあったんじゃないかって思っちゃうけどね。だから、次にまた同じステージに立つんだとしたら、負けるつもりはないから」


「ああ。俺達だって負けるつもりはない」


 紅太とつむぎは握手を交わすと、ライバルとして正々堂々競い合う事を誓ったのだった。

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