蒼司の新たな振り付け

「あ、小日向さん」

 

「朝日君、紀伊君、木戸君。あんた達も呼ばれてたのね」

 

 俺達の初ステージからずっと一緒に出演し切磋琢磨してきた、小日向さんだ。


「聞いて驚きなさい。あたし、オリジナル曲を作ってもらえることになったわ」


「え、すごいじゃん」


 小日向さんは今まで、Glorious Tailのカバーのみやってきた。それらの経験や小日向さん自身の実力が認められ、今回のライブを契機にオリジナル曲を作る事になったらしい。


「あたしはソロで活動することが多かったから、ソロ楽曲になる予定。これから作曲担当の軽音楽部と話し合いになるわ。まぁ、どんな曲になるか本番を楽しみにしてなさい」


「うん。楽しみにしておくよ」


 小日向さんはこれからも練習を積み、作詞を進め、『ラブ・ホールデム』を超えるかもしれない見事な楽曲に仕上げるだろう。その日が楽しみだ。


「なぁ紅太、ちょっといいか?」


「どうした、蒼司?」


 その後、俺達はそれぞれ帰ろうとしたが、蒼司が声を掛けてきた。


「実は相談がある……。次の曲は、ポップから外れた曲にして欲しい」


「ポップから外れた曲?」


 なぜそんな要望を蒼司が要求するのか。理由を聞いてみると、どうやら蒼司のお母さん、珠美さんから言われたことが原因らしい。

 何でも、今まで俺達がやってきた曲はほとんどポップだったので、この辺で別のダンスに挑戦して視野を広げた方が良いんじゃないか、という事だった。


「あ~、確かに、『アウアリイ』はハワイアンだったけどそれ以外はポップの色んな色を付けただけだよね~」


「菜月の言うとおりだな。でも安心してくれ、蒼司。今回の『ラブ・ホールデム』を聞いて、ちょっとアイディアが降ってきたんだ。ポップから離れる感じになると思うから、曲の仕上がりを楽しみにしていてくれ」


「ああ。頼む、紅太」


 


~蒼司side~


 数日後。蒼司の元へ紅太から楽曲データが送られてきた。


「タイトルは『駆け引きは対面トイメンで』か」


 楽曲データを早速視聴してみると、この楽曲は中華風の曲調だった。しかも駆け引きをテーマにしているらしく、終始緊張感で張り詰めたような雰囲気が流れている。


「これはなかなか、やり応えがある曲じゃないか。さて、確か中華舞踊の資料は持っていたよな」


 蒼司達三人の家族は世界各地の文化や芸術に触れるため数年に一度海外旅行に行っているのだが、その中には台湾も含まれていた。

 台湾に行ったときに現地の舞踊や音楽、デザインを学んでおり、蒼司はまだその時の資料を持っていたのだ。


「あったあった。さて時間も無いし、すぐに始めるか」


 蒼司は『駆け引きは対面で』を聞きながら資料を開き、振り付けに取りかかった。




~紅太side~

 

 ライブ当日。

 アイドル甲子園強豪校の雲鳥学園は、アイドル部のための設備が充実している。その最たる物が『アイドル棟』だ。建物丸々一棟がアイドル部のための物なのだ。

 

 内部は複数のレッスンルームにPV撮影のためのスタジオなどアイドル部の活動に必要な設備が色々と揃っているが、最も面積を多く取っているのが『ライブステージ』だ。

 実際に客を入れられるようになっているし、舞台装置もスポットライトの他にレーザー、スチーム、リフターもあるしトロッコを動かせるスペースも確保してある。

 舞台装置だけで言えば、プロのアイドルが使うステージに一切引けを取らない。そんなステージが今回のライブの会場だ。


「おー。ここがアイドル棟の楽屋か」


「興味津々だね~、紅太君~」


「憧れてたステージの1つだからな。テンション上がらない方がおかしいだろ」


 元々、俺は雲鳥学園のアイドル部に入部するつもりだった。結局女子しか入部できなかったので出演者としてアイドル棟に入ることはないと思っていたが、まさかこんな形で入ることになるとは思わなかった。

 この楽屋は巨大な鏡にドライヤーとヘアアイロンを常備したドレッサー、ステージの様子を確認できる巨大モニターなど、かなり充実した楽屋となっている。


 俺達が楽屋で準備を終えてしばらくすると、ライブが始まった。モニターにはGlorious Tailが新曲『ラブ・ホールデム』を歌っている様子が映し出されている。


「音源では何回も聞いたけど、ライブだと迫力が違うな」


「ああ、振り付けも一つ一つ洗練されている。ちゃんと曲と同じくカードゲームをやっているような振り付けが出来ているな」


「ああいうの見ると、曲の世界に引き込まれちゃうよね~」


 彼女達の曲と振り付けもさることながら、ステージ演出も素晴らしいものだった。スポットライトやスモークなどの光はもちろんの事、トランプ型の大きな照明が複数個吊り下げられており、まるでポーカーの試合会場のようだった。

 曲が終わると、Glorious Tailの三人でMCが行われた。自己紹介もそこそこに、今回のライブの趣旨を説明した。


「今回のライブは、『Glorious Tailの挑戦状』というテーマで企画しました」


「自分達の新曲……『ラブ・ホールデム』を聞いてもらって……これに対抗するステージを考えてもらった……」


「あたし達、他のみんながどんな曲を歌ってどんなステージにするか、楽しみなんだー。みんなも楽しみにしててねー!」


 MCが終わると、他のアイドル部員のステージとなる。さて、どんなステージが飛び出してくるか……!

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