夏のライブ計画

 銀月農業のライブは大成功に終わった。俺達の実力を十分に発揮できたと思う。

 このライブの自分たちの出番、つまり『霧の街のシャードッグ』を歌っているときの映像は、前回のライブと同じくスマイル動画に投稿。

 コメント欄を見る限り反応は上々で、『キュート路線の銀月農業では見られないミステリアスな曲だな』『動物モチーフの曲でここまでかっこよくなるのか』『いかん、歌の物語に引き込まれる』など、肯定的な意見が多かった。


 そんなライブの余韻を感じながら一ヶ月過ぎ、7月となった。

 期末試験を無事終え、各部活が試験休部から再開し始める頃、Glorious Tailの松島先輩が俺達を訪ねてきた。


「やぁ……元気してた……?」


「松島先輩。お久しぶりです」


「実は……Awaiauluにライブのお誘いだ……」


 松島先輩の話すところによると、今まで月に1回ライブに参加するペースだったのが、夏休みに入ることで月2~3回にペースが上がるとのこと。そこで、Awaiauluもより多くライブに参加できないかと誘ってくれているのだ。


「まぁ、7月は半ば過ぎたしね……。今月は1回しか出来ないけど……8月はどの部員も2~3回ライブする予定だから……。とりあえず今月のライブ、どうかな……?」


「はい、ぜひ! みんなも良いよな?」


「ああ。ステージに立てる貴重な機会を与えてもらえるのであれば、嫌という理由はない」


「それに、銀月農業のライブの時に思ったけど、ライブによって個性があるよね~。今度のライブはどうなるかな~?」


 俺達Awaiauluは、ライブ参加ということで意思が決まった。


「わかった……。明後日に今月やるライブの説明会があるから、そこに参加して欲しい……。場所は多目的室だから……」


「わかりました」


「じゃあ、よろしく……」


 松島先輩はそう言って去っていった。



 

~蒼司side~


「ワン、ツー、ワン、ツー」


 その日の夜、蒼司は実家のダンススタジオでステップの練習をしていた。

 実は、蒼司はなるべく日々の基礎練習を欠かさないようにしている。10分程度の短時間であっても行っている。

 なぜなら、日々練習する事でダンスの勘を忘れないようにするためであり、また新たな発見もあったりするからだ。

 なお、このことを教えたのは蒼司の母であり、ダンスの師匠でもある珠美だ。


(紅太のヤツ、次はどんな曲を考えているのか)


 紅太の作曲家としての能力は以前から蒼司も認めていたが、Awaiauluを結成してから改めてその能力の凄さを実感している。

 とにかく発想力がすごい。特に先月の銀月農業のライブでは、キュート系になりやすい動物テーマの曲をミステリアス系にしてしまった。


(とにかく俺は、紅太のことを信じている。俺に出来る事は、紅太がどんな曲を作ってきても完璧に合わせる振り付けを考えること。そのために準備は万全にしておかねぇと……)


 その時、ダンススタジオのドアが開いた。


「自主練してたの、蒼司? 基礎練習は大事だと言ったけど、やり過ぎては毒よ」


「母さん……」


 入ってきたのは、蒼司の母でダンスの師匠、このダンススタジオを開いた人物である珠美だった。

 珠美は蒼司の前までやって来ると、蒼司の身体を流し見た。


「結構長い時間練習してたのね。まだ紅太君から曲は来てないんでしょう?」


「ああ。だが、あいつはアイディアマンだ。突拍子もない曲を作ってくるかもしれない。そのために俺はいつでも準備しておかねぇと……」


「なるほど。事情はわかったわ」


 珠美は腕を組むと、話題を切り出してきた。


「ところでお母さん、前々から思ってたんだけど、そろそろ視野を広げてみない?」


「視野を広げる?」


 何を言っているんだこの人は、と蒼司は眉根を寄せた。もちろん、口から出てきたのは反論だ。


「何言ってるんだよ。最初の『アウアリイ』ではハワイアン、次の『Must Win Buttle』はアクション、先月の『霧の街のシャードッグ』ではミステリアス、色々な曲の振り付けをやってきたんだぞ?」


「そうね。でも最初のハワイアンはともかく、後の二曲はポップを基本にした曲じゃない」


 珠美の言うとおり、個性を出すために個性を押し出してはいるが、冷静に考えるとポップの域を出ていなかった。


「明後日、ライブのミーティングがあるんでしょ? その時に紅太君に頼んでみなさい。『もっと色んなダンスに挑戦したいから、ポップから離れた曲を作って欲しい』って。そうすれば蒼司の、ひいてはAwaiauluの成長に繋がるはずよ」


「……そうだな。紅太に相談してみる」



 

~紅太side~


 説明会当日。会場となる多目的室には多くの生徒が集まっていた。


「人が多いな……」


「アイドル部の人だけじゃなさそうだね~。あの子、確か軽音楽部じゃなかったっけ~?」


「アイドル部に協力している部活もあるからな。そういった関係ある部活の部員も説明会に来ているっぽいね」


 アイドル部の活動は、他の部活の協力を得ていることも多い。作詞作曲や音源の演奏を音楽系の部活に依頼したり、衣装作成を裁縫部に依頼したり等だ。

 アイドル部の規模が大きいほどこの傾向は強く、雲鳥学園はその局地とも言える。なにせ自分たちで行うライブのケータリングを料理部に依頼して作ってもらったりしているくらいだから。

 逆に、規模が小さいと俺達みたいに何から何まで自力で行う、完全自己プロデュースの傾向が強くなる。分業していないから不得意分野が強烈に出てしまいがちだが、中にはこのやり方が性に合っているのかアイドル甲子園で好成績をたたき出す学校も存在していて、そこがまたアイドル甲子園の魅力の1つという声もある。


「では皆さん、揃っているようなので説明会を始めたいと思います」


 説明会の司会として取り仕切っているのはGlorious Tailの三人。そのリーダーである筑波先輩が第一声を上げた。


「今回のライブのテーマは、『Glorious Tailからの挑戦状』です。まずはこちらをお聞き下さい」


 筑波先輩が目の前のパソコンを操作すると、音楽が流れた。曲調はゴージャスかつミステリアス。歌はGlorious Tailが歌っており、歌詞は恋の駆け引きをカードゲーム、テキサス・ホールデムというルールで行われるポーカーに例えているらしい。

 曲調のゴージャスさとミステリアスさ、そして歌詞が絶妙に合わさり、豪華なカジノのイメージが脳内にハッキリとイメージさせられた。


「今流したのは、私達の新曲『ラブ・ホールデム』です」


「ライブ当日は……私達がトップでこの歌を披露する……」


「そしてステージでパフォーマンスするみんなはー、この曲と勝負する曲を歌って欲しいんだー」


 なるほど。つまりこの『ラブ・ホールデム』のテーマや雰囲気を念頭に置き、勝負したい曲でかかってこいと。面白いじゃん。

 その後、当日の流れや一人当たりのおおまかな出演時間などを説明した後、説明会は解散となった。


 ただ、アイドル部員の中に音楽系の部活の部員と一緒に話し合う姿がよく見られたことから、新曲の相談を行っているらしい。

 そして新曲の相談を行っているアイドル部員の中に、見知った人物がいた。

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