犬の探偵さん

 Awaiauluのステージは、照明が一切無い真っ暗闇で音楽だけが鳴り響く状態から始まった。


「真紀ちゃん、この音楽……」


「ミステリアス系だ……。銀月農業じゃあんまり聞かないよ」


 銀月農業の楽曲はキュート系が多く、ミステリアス系の曲はあまり聞き馴染みがない。

 前奏が終わるとAwaiauluの三人にスポットライトが当たり、歌唱が開始される。歌詞はストーリー仕立てになっており、一番は盗難事件、二番は殺人事件を捜査する内容となっている。

 ダンスは三人それぞれ虫眼鏡を持っており、それを使って証拠を見つけ出すかのような振り付けとなっている。


「この曲、なんだかすごく……」


「歌の世界に引きずり込まれる……! 続きが気になって仕方が無い……!!」


 小豆と真紀は、Awaiauluのパフォーマンスに引き込まれていた。歌詞がストーリーになっているため、曲の世界観に引き込まれやすいのだ。

 そして曲もいよいよクライマックス。一番の盗難事件と二番の殺人事件をつなぎ合わせ、事件の背後にいる存在『モリアーティ教授』の存在を突き止め、ステージは幕を閉じた。



 

 Awaiauluのステージが終わると、つむぎとAwaiauluでMCパートに入った。


「改めまして、雲鳥学園から遊びに来ました、一年生の小日向つむぎです。そして――」


『俺達、Awaiauluです!!』


 名乗りを上げると、会場からワッと完成が巻き起こる。


「まず、私が披露した『キャット・アイランド』、いかがでしたか?」


 観客達は絶賛の声を上げた。曲を知っていた観客が多く、原曲と比較して満足がいくパフォーマンスであったことの証だろう。


「ありがとうございます。この曲は私の尊敬する先輩で、去年のアイドル甲子園の覇者『Glorious Tail』の曲なんですけど、今回のライブのために貸していただきました。先輩方の顔に泥を塗らなくて良かったと思います」


 そう言って、つむぎは目を細めて笑んだ。いつものツンケンした雰囲気からは考えられないような笑みだった。

続いて、Awaiauluが話し始めた。


「俺達Awaiauluは、雲鳥学園の生徒だけどアイドル部の部員ではありません。アイドル甲子園男子の部を創設させてもらうよう、個人で活動しています。……まぁ、知っている人もいるだろうけどね」


 紅太は苦笑気味に語った。続いて菜月が口を開く。


「今回歌ったのは、新曲なんだよね~」


「ああ。タイトルは『霧の街のシャードッグ』。犬の世界の探偵をイメージした曲だ。『霧の街』はシャーロック・ホームズの舞台であるロンドンの異名、『シャードッグ』は『シャーロック』と『ドッグ』をかけた物だ。ところで紅太、この曲は発想のきっかけがあったんだよな?」


「そう。擬人化した犬が住む世界のホームズを描いたアニメが昔合ったらしくてさ、母さんがファンなんだ。それを知ったから、この曲が書けた」


 この後も製作秘話がポンポン出そうになったが、良いところで時間になった。


「三人とも、そろそろ銀月農業の準備が終わったみたいだから、場面を回すわよ」


「OK、小日向さん。では皆さん、楽しいライブも次でラストブロックです。最後まで楽しんで下さい!!」



 

 ステージを降りると、入れ替わりで銀月農業のアイドル部員がステージへと上がっていく。もちろん全員というわけではなく、出番がまだの部員は舞台袖や楽屋に待機している。

 待機組の中に、ドッグ・ヨーンの小豆と真紀がいた。


「みんなお疲れ様。良いステージだったね」


「うん。マキ達も色々と参考になるステージだった」


 小豆と真紀はつむぎの方を向いた。


「小日向さん。ソロでやるには難しい曲を、高い完成度で堂々と演じ切れた。これから三年間、雲鳥学園は手強い存在であり続けるんだろうね」


「ありがとうございます。でももっと成長して、圧倒的な差を付けて見せますから!」


「うん、期待しているよ。同じアイドル部としてね」


 続いてAwaiauluの三人に顔を向けた。


「Awaiauluのあの曲、度肝を抜かれちゃった。まさかワンちゃんと探偵を結びつけるなんて……」


「でもよく考えてみれば犬のおまわりさんの童謡もあるから、探偵っていう発想もアリなんだよね……。マキ達、ワンちゃんのかわいいところしか見てなかったから……ちょっと反省しないと」


 小豆と真紀は反省する節を見せた。今回のライブ、そしてAwaiauluのステージを見て、自分たちがいつの間にか視野狭窄に陥っていたことを痛感したらしい。


「それにしても、あなた達Aawiauluは手強かった。歌とダンスはもちろん、発想力が優れている」


「Grlorious Tailがあなた達に手を貸したくなる理由、わかった気がする」


 小豆と真紀に賞賛され、紅太、蒼司、菜月は照れを隠すように笑った。


「ありがとうございます」


「結構突貫だったけど、僕達頑張りましたからね~」


「初めての他校のライブ、俺達も参考になりました」


 その後、しばらく雲鳥学園のステージの講評の様な会話が続いたが、ここでドッグ・ヨーンの出番が来てしまった。


「楽しいアイドル談義だったけど、もう時間だね」


「この後もマキ達のライブ、楽しんでいって」


 ドッグ・ヨーンの三人は、ステージへと駆けていった。ステージは今まさに始まっているが、ラストが近いこともありこの日最高の盛り上がりとなった。

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