ライブ in 銀月農業
ライブ当日。俺と蒼司、菜月は銀月農業高校にいた。ライブ会場である大講堂内の教室の1つが、俺達Awaiauluの楽屋だ。
楽屋は元々あった机とイスを配置し直しており、中央に大きなテーブルと壁際に鏡を設置したメイク用の台、という作りになっている。
そして黒板の代わりにホワイトボードが設置されており、その目の前にはレンズ付きの箱状の機会があった。
「これ、プロジェクターか?」
「なるほど。これを使ってステージの様子を中継するのか」
「スピーカもあるよ~。これ、有名なブランドのスピーカーだよね~?」
どうやら、楽屋にいるからといってライブの迫力は客席と遜色ないようにしているらしい。
俺達が衣装に着替え、メイクも終えた頃にライブは始まった。オープニングアクトからMC、そして楽曲の披露と、淀みなくセトリが進行していく。
「やっぱ、キュートな曲を前面に押しているな」
「ああ。動物テーマが特色の学校だからな。そうなるのも納得だ」
「でも、少しだけ大人っぽい感じの曲もあるね~」
しかし、さすが銀月農業のアイドル部。盛り上げるのが上手い。そこがまた大講堂で見に来ている銀月農業ファンが多い理由の1つなんだろうな。
そしてライブのラストブロックの1つ手前。注目のユニットが登場した。
「出たな、ドッグ・ヨーン」
「銀月農業のエースユニット……」
「どんなステージを見せてくれるのかな~?」
ステージに流れ出した音楽は、ポップでキュートなとっつきやすい曲調だった。
「これは、『子犬のプレイ・アンド・スリープ』?」
「確か、ドッグ・ヨーンの代表曲だよね~?」
「かなり本気で俺達雲鳥のことを意識しているな」
『子犬のプレイ・アンド・スリープ』は、ドッグ・ヨーンの代表曲として有名だ。ポップな曲調で全体的に明るく、歌詞も子犬のかわいい仕草を歌っており幅広い客層に人気がある。
だが人気があるのは曲調や歌詞だけでなく、印象に残りやすいと言う点が大きい。
『プレイ・アンド・スリープ』――つまり『遊びと眠り』のタイトル通り、子犬が楽しく遊んでいると体力が切れて突然寝てしまい、眠りから覚めると再び遊び始めるという仕草を表現した歌だ。この仕草を表現するため、変調を多用している。
アップテンポで明るい感じかと思ったらゆったりと眠くなるような落ち着いた感じになり、またアップテンポになる――とまぁ、曲調が一定ではないのだ。
この変調の多用が多くの人の印象に残り、また難易度を高めている。なんせリズムが一定ではないせいで、歌もダンスも常に切り替えを意識しなければならない。
だけど、ドッグ・ヨーンのメンバーはそれを軽々とやってのけている。
「すごいな……あの動き」
「ああ。ダンスも歌も息ピッタリ……」
「表現力も高いよね~。ワンちゃんのかわいいところを凝縮しているみたいだな~」
そして、ドッグ・ヨーンの二人は高難度の曲を危なげなく終わらせた。いや、非常に高いパフォーマンスで会場を沸かせたのだ。
『みなさーん、楽しんでますかー? 今日は、ゲストが来ていまーす!!』
『前回のアイドル甲子園を制した雲鳥学園から、期待の新人とネットで話題沸騰中のユニットです。お楽しみに!』
ドッグ・ヨーンのMCをはさみ、次の曲が流れた。海を想起させるカリプソ調の曲だ。
そしてステージに登場したのは小日向さん。猫耳と尻尾を付けている。
「わぁ、かわいい衣装だね~」
「確か、小日向さんは今回もGlorious Tailの曲をカバーするんだったな、紅太?」
「ああ。Glorious Tailの曲で猫と言えば、アレしかない……!」
曲の名前は『キャット・アイランド』。日本にいくつか存在する島民以上に猫が多い島、通称『猫島』の情景を描写した歌で、カリプソ調の曲に合わせて島っぽさを表現している。
特徴的なのがダンスだ。本来はGlorious Tailの三人で歌われる歌で、なんと振り付けが三人バラバラなのだ。猫の気まぐれさを表現しているらしい。
だが、今回は小日向さん一人。この特徴的なダンスをどう表現するか注目していたんだけど……。
「なんか、せわしないな……」
「落ち着きがない、というより気まぐれっぽい印象だな……」
「これも、猫っぽい感じがするね~」
最後まで見ていたいが、残念ながらそろそろ舞台袖に移動しなくてはならない。これはもう、早めに行って直に見るしかないかな。
~ドッグ・ヨーンside~
ドッグ・ヨーンの小豆と真紀は、舞台袖でつむぎのライブを見ていた。楽屋のモニターで見ることも出来たのだが、ライバルの一校である雲鳥学園の実力を確かめておきたかったのだ。
「どう、真紀ちゃん? あの子のこと」
「まだまだ荒削りだけど、一年生としては頭一つ抜けてるわね。Glorious Tailの曲はどれも難曲だけど、それを間違えないどころか細部を突き詰めに来ている。今年のアイドル甲子園に出場できても不思議じゃないわね」
「そうだね……あ、次の人達が来たみたい」
舞台袖に現れたのは、つむぎの次に歌う事になっているAwaiauluの三人だった。
だが小豆と真紀は、Awaiauluの姿に度肝を抜かれた。なぜなら、Awaiauluの三人が着ている衣装が異質だったからだ。
「その衣装……」
「ワンちゃんの耳と尻尾に……外套と帽子?」
そう。Awaiauluのメンバーは、ブラウンベースのチェック柄をした外套と帽子を着用していた。動物をテーマにした衣装を着ている銀月農業はカワイイ感じの衣装が多いが、こんな衣装は作ったことがなかった。
Awaiauluの衣装は、まるで……。
「探偵みたいだね」
「ええ、まぁ。あるアニメの存在を知って、それにインスピレーションを得たんです」
「曲も、多分あなた達銀月農業が歌うような曲では無いと思います」
「だから僕達のステージ、楽しみにしていた下さいね~」
丁度その時、つむぎのステージが終わった。紅太はポケットに忍ばせていたジュンケルを一気に飲み干すと、蒼司、菜月と共にステージへと上がっていった。
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