動物テーマのライブに向けて

~ドッグ・ヨーンside~


「ワン、ツー、ワン、ツー」


「ここは、こう!」


 数日後、銀月農業アイドル部のエースユニット、ドッグ・ヨーンの小豆と真紀の姿は、銀月農業のアイドル部専用レッスン室にあった。


「ワン、ツー、ワン、ツー」


 ダンスのレッスンは単調なリズムに繰り返しだ。

 決まった振り付けを忠実かつ素早くこなすことはアイドルの基礎中の基礎であるのだが、この二人が意識しているのは基礎以上の更に先だ。


「……うん、ここまではいつも通りだね」


「まぁ、何度もやってきた曲だしね。この曲はマキ達ドッグ・ヨーンの代表曲だもん」


「でも、その先を見せるんでしょ?」


「当然! ワンちゃんへの愛を見せつけなきゃね! あの子達のためにも、絶対に無様なステージにはできない」


 真紀の言う『あの子達』とは、二人がかつて飼っていた。愛犬達の事だ。

 二人が小学生の頃、小豆は柴犬を、真紀は秋田犬を飼っていた。実は二人が出会ったのは愛犬がきっかけだった。偶然散歩コースが重なっていたため知り合ったのだ。

 さらに二人の愛犬には共通点があった。音楽とダンスが好きなのだ。小豆や真紀が話題のアイドル部の真似をして歌って踊ると、喜んで飛び跳ねてくれるのだ。

 愛犬が喜んでくれること、それが二人にとって至上の喜びだった。


 しかし、そんな愛犬たちも二人が中学生になった頃に老衰で死去してしまう。

 悲しみに暮れる中、小豆と真紀は誓った。


『愛犬たちが歌とダンスで喜んでいたように、ワンちゃんたちに喜んで貰えるような、最高のパフォーマンスをするユニットを作ろう!』


 と。それから二人は愛犬がいなくても自分達の力だけで頑張るために、動物をテーマにしている銀月農業高校アイドル部に入ったのだった。


「さ、真紀ちゃん。次はこのパートをやってみよう」

 

「そこね。マキ、そこのレベルを上げる方法を考えてたんだ」


「本当!? ちょっと教えてもらえないかな?」


 二人のレッスンは、下校時刻ギリギリまで続いた――。




~Awaiaulu side~


 銀月農業でのライブに動物テーマの曲を作るという条件を課せられた俺は、ずっと悩んでいた。曲のアイディアがなかなか生まれないのだ。

 振り付けと衣装製作も考えると、あと3日以内に曲を作らないといけないのに……。


「やっぱ動物テーマの曲だと、カワイイ系がほとんどなんだよな……。たまに動物への愛を歌うって事でバラードだったりするけど」


 けど、そういう曲はたくさんある。しかもそういった曲は銀月農業の十八番で、同じ土俵に立ってしまうとこちらが見劣りしてしまうし、埋もれてしまうのが関の山だ。

 だから別の曲調にする必要があるんだけど……動物をテーマにするとなると、合わせるのがなかなか難しいのだ。


「紅太、お母さんこれから出かけてくるから、留守番頼んだわよ」


 そんな俺に声をかけたのは、俺の母さんである朝日あさひ 詩音しおん。実家の音楽教室を開いている人物であり、俺、蒼司、菜月に音楽教育を施した人物でもある。


「母さん、これからどっか行くの?」


「映画に行くのよ。昔放送していたアニメのリバイバル上映でね。お母さんファンなのよ」


「そっか。行ってらっしゃい」


 母さんを見送った俺だが、ふと母さんが何の映画を見ようとしているのか気になった。そこで俺はスマホを使って調べてみた。


「今やってるアニメのリバイバル上映は……これだけか」


 母さんが見る映画は、シャーロック・ホームズを題材にしたアニメらしいのだが……登場人物が全て犬なのだ。

 ホームズはもちろん、ワトソン、レストレード警部、ハドソン婦人、モリアーティ教授等々、全員擬人化された犬なのだ。


「へぇ、こんなアニメがあったのか――あ!」


 その時、俺の頭にひらめきが降りてきた! これなら、いけるかもしれない!

 俺は猛烈な勢いで曲を書き上げ、その日のうちに蒼司と菜月にデータを送信できたのだった。

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