農業高校からの挑戦状

 俺達Awaiauluの初ステージは成功に終わった。

 このステージで初披露した新曲『Must Win Buttle』はステージの映像を編集してMVとしてスマイル動画にアップしたのだが、コメントを見る限り概ねいい反応が返ってきている。

 

『カッコいい! 曲調も歌詞も良いし振り付けに熱があって良い!』


『Glorious Tailとも違う魅力があるね』


『これ、マジで殴り合ってる!? 怖いくらい覚悟を感じるね』


 そんな感じで、概ね好印象のようだ。MVの再生数も日に日に増えていくし、手応えは十分だろう。

 この成功に弾みを付け、次の新曲を考えていた中、Glorious Tailの筑波先輩が俺達を訪ねてきた。


「みんなお疲れ様。市民祭りでは大活躍だったみたいじゃない」


「筑波先輩。お疲れ様です」


「Awaiauluのパフォーマンスは、これから参考にさせて貰うわ。それに市民祭りに参加していた一年生のほとんどがあなた達に刺激を受けたらしくてね。レッスンに熱が入っているわよ」


 それは嬉しいニュースだ。特に小日向さんの熱の入れようは半端ではなく、技術もメキメキ症立つしているそうで一番注目されているらしい。


「それで、今日の本題なんだけど……次のライブの話よ」「次のライブ、ですか……?」


 筑波先輩の話によると、市民祭りのステージの反響、そして投稿した『Must Win Buttle』のライブ映像を見て、『ぜひうちのライブに来て欲しい』という他校のアイドル部がちらほら現れているらしい。


「それで私達の方でライブをピックアップしたの。『銀月農業高校』って知ってる?」


「銀月農業高校……。確か『アイドル甲子園』の常連校ですよね。動物をモチーフにした衣装と楽曲で有名な」


 銀月農業高校は、雲鳥学園と同じ県内にある高校だ。市は異なっているので、行こうと思うと電車で何十分もかかるが。

 そこのアイドル部は農業高校らしく動物をモチーフにしていることで有名で、一言で言えば『キュート極振り』が特徴だ。


「なるほど。で、どんなライブを?」


「それはこれから決めるわ。来週マネージャーと一部のアイドル部員が来校して、ライブの内容を詰めるの。ただ会場が銀月農業高校になるから、主導権はあちらが握っているし銀月農業の意向が優先される。

 それで、あなた達がライブに出たいのなら、この会議に参加して欲しいのだけど……」


 筑波先輩にそう聞かれると、俺達は異口同音に答えた。


「もちろん参加希望です!」


「他校のパフォーマンスを間近で見られるチャンスだ。勉強させてもらう」


「動物モチーフか~。かわいい衣装の参考になればいいな~」


「決まりね。Awaiauluは参加希望と言うことで先方に伝えておくわ。会議の詳細は追って連絡するから」


 筑波先輩はそう言い、アイドル部の部室の方向へ帰って行った。

 

 


 会議当日。


「初めまして。私、銀月農業アイドル部のマネージャーをしている、二年の高妻麻央と申します。今日の会議を担当させて頂きます」


 雲鳥学園の教室の1つを臨時の会議室にして、俺、筑波先輩、小日向さんの3人が会議に参加していた。蒼司や菜月、Glorious Tailの他の二人の先輩方がいないのは、あまり人数を多くしすぎると威圧感を与えるということで人数を絞ったのだ。

 銀月農業からはマネージャーの高妻さん、それと2名の部員が参加している。


「よろしくお願いします。私は雲鳥学園アイドル部の筑波朱音といいます。こっちは一年の小日向つむぎ。そしてこちらはアイドル部員ではないですが、Awaiauluの朝日紅太です」


「よ、よろしくお願いします」


「……どうも」


「はい、よく存じています。小日向さんは最近メキメキと力を付け、今年の一年生の中では注目株。朝日君のAwaiauluはアイドル甲子園男子の部創設を働きかけようと活動を開始している。かなり注目されていて、我々の方からライブ参加をお願いしました。

 ……さて、では今度はこちらの自己紹介ですね」


 すると、高妻さんは同行していた2名のアイドル部員へ手を向けた。


「こちらは柴崎しばさき 小豆あずき、もう一人は秋田あきた 真紀まき。当高校アイドル部が誇るアイドルユニット『ドッグ・ヨーン』を結成しています」


 柴崎さんの方は黒髪のショートカット、秋田さんの方は金髪で耳の上あたりに髪を一房お団子状に結っている。二人とも身長は150cmほどだろうか。

 そして『ドッグ・ヨーン』と言えば、アイドル甲子園ファンであれば一度は名前を聞いた事がある有名なユニットの1つだ。

 去年のアイドル甲子園では、優勝したGlorious Tailを除き一年生ながらいいところまで勝ち上がれたユニットがいくつかあった。ドッグ・ヨーンもそのユニットの1つなのだ。


「それでは、自己紹介も済んだところで本題に入らせていただきます。ライブの日程は6月第2土曜日、午後二時開演で三時間程度を予定しています。場所は銀月農業高校の大講堂。楽屋は大講堂内にある小教室を使用していただきます」


 筑波先輩は特に何も言わない。アイドル部のライブ運営としてはよくある状態なのだろう。


「なるほど。それで、ライブの内容はどのようなものを?」


「『動物』をテーマにしていただきます。衣装はもちろん、楽曲も全て動物モチーフでお願いします。それが我々、銀月農業の特色ですので」


「聞いていた通りですね。構いませんよ。小日向さん、後で動物テーマの楽曲を教えるから。それと動物モチーフの衣装も確かあったはずだから、衣装合わせもやるわよ」


「わかりました、筑波先輩」


 確か、Grolious Tailの楽曲の中には動物テーマの物があったし、それに合わせた衣装もあったはず。今回も小日向さんはGrolious Tailのカバーをやるのか。

 それにしても、動物か……。


「すみません。もし、動物テーマの曲や衣装が用意できなかった場合は……?」


「出演を断念していただきます。例外を認めるとライブで築きたい世界観が壊れてしまうので。どうしても準備できない場合、早めに連絡を入れて下さい。セトリ調整が大変なので」


 どうやら、残された時間はあまりないらしい。一応ライブまで一ヶ月近くあるが、蒼司に振り付けしてもらったり菜月に衣装を作ってもらう時間を考えると、曲作りに使える時間は一週間程度か……?

 その後、ライブの細かい所を詰めていき、会議は終了となった。

 銀月農業の3人を見送ろうとすると、ドッグ・ヨーンの柴崎さんと秋田さんが俺達に向かって宣言した。


「わたしたち、ユニット名の通りワンちゃんが大好きなんです。ワンちゃんへの愛は誰にも負けないつもりです」


「ライブでは、その愛を歌とダンスに全て乗せる。だから、楽しみにしてて」


 二人はそう言い残し、銀月農業へ帰っていった。やはりアイドル甲子園に出場しただけあり、その闘争心は本物だ。その様は愛玩犬じゃない、闘犬だ。

 どうやらこのライブ、簡単に会場を沸かせられないらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る