初ステージと宣戦布告
数日後。
「蒼司、菜月、Glorious Tailの新作動画見たか?」
「ああ、見た。俺達の曲『アウアリイ』をコピーしていたな」
「しかもほぼ完全にね~。衣装とイスのデザインが少し違うくらいかな~」
Glorious Tailは、俺達Awaiauluの曲『アウアリイ』をコピーしていたのだ。しかも編曲が一切無く、キーを一切変えていない。
つまり、女子なのに男性パートを平然と歌っていたのだ。
ダンスもほぼ完璧。少々Glorious Tailらしい色を混ぜているが、アウアリイの特徴とも言える少ない動きで王者らしい威厳を出すという難しい部分を、先輩達は難なくこなして見せたのだ。
「あーあ。これは、俺達も負けていられないな」
アイドル部の世界で、カバーやコピーは二つの意味を持つ。一つは勉強のため。自分たちとは特徴が異なる曲を歌うことで、自分たちにない技術を習得する。
もう一つは『挑戦状』。自分たちはお前らの曲をここまで出来たんだぞという意思表示だ。
今回Glorious Tailが俺達の曲をコピーしたのは、どちらかというと挑戦状の意味合いだろう。ただ他にも、俺達のことをライバルとして認めるとか、勝負するために頑張れという激励の意味も含まれていると思う。
動画に付けられたコメントはと言うと。『Glorious Tailさん、またカバーしてる(奪いに来てる)』『この衣装、もしかして新作?』『男子の歌をキー変なしで歌い上げるなんて……』と、感嘆のコメントが多い。
やはりGlorious Tailの技量の高さ、どんな歌でも確実に物に出来る姿をまじまじと見せつけられた。
この日、Glorious Tailの筑波先輩が俺達の教室を訪れた。
「Awaiauluの皆さん、私達の動画は楽しんでくれた?」
「は、はい。俺達の歌をカバーするなんて驚きました」
「しかも、完成度がかなり高い」
「あの難しいダンスを易々とこなされると、僕達の面目がないな~」
「ふふ、ありがとう。でも、結構苦労したのよ? 男子のキーに合わせて歌うのに調整が必要で時間がかかったし、ダンスも少ない動きでインパクトを付けるのに試行錯誤を……。
まぁそれはいいとして、今日は感想を聞きに来たんじゃないの。これを」
菊池先輩が差し出したのは、一枚の紙だった。タイトルは『市民祭りステージ打ち合わせ会のご案内』。
これは……もしかして……。
「あなた達も小耳に挟んだことがあるかもしれないけど、私達雲鳥学園アイドル部はこどもの日に開かれる市民祭りのステージで、専用の出演枠を持っている。その出演枠で、今年入ってきた新入生の中で有望な子に出てもらうのよ。いわば新入生のお披露目会ね」
「ああ、俺も聞いたことがあります。雲鳥学園アイドル部の伝統だって……」
「その通りよ。それで市民祭りの主催者にお願いして、あなた達Awaiauluの出演枠をもらってきたわ」
もちろん、ゴールデンウィーク中だから予定があるなら無理しなくて良いけど……と菊池先輩は言っていたが、俺達は即答した。
「やります、やらせてください!」
「俺達にとって、良い経験になるこの機会を逃すはずがない」
「初めてのステージか~。ワクワクするな~」
「ありがとう、そう言ってくれると嬉しいわ。じゃあ、ステージに立つルールとか時間とかの説明があるから、この紙に書いてある通り会議に参加してね」
「はい!」
その数日後の放課後、俺達は早速市民祭りの打ち合わせ会に参加した。
雲鳥学園から歩いて10分程度の公民館に集まり、会議開始の30分くらい前まで雑談をすることになる。
「今回は野外ステージか。昔このステージでショーを見てたよなー」
「そうそう~。ヒーローショーとか見てたよね~。懐かしいな~」
「この会議の参加者も色々な人が来ているな。ヒーローショー関係者、大道芸人、モノマネ芸人、地元の学生の部活動の部長や副部長、そして――」
蒼司の視線の先には、俺達が見慣れた制服を着た女子の一団が。そう、雲鳥学園アイドル部に入部した1年生だ。
「この会議に参加している三分の一くらいがアイドル部じゃないか?」
「しかも、これでもまだ選考された部員なんでしょ~?」
「実際の入部人数はもっと多いと聞く。かなりの大所帯だと、改めて感じるな」
とまぁ色々話している内に、会議が始まった。
会議の内容は、出演者や団体の事情を考慮するがステージは概ね15分以内、市民祭りの運営から数人程度ならスタッフが手を貸してくれること、紙吹雪や液体を使うといった清掃が必要な演出は禁止、火花や炎といった火気は厳禁、といったようなものだった。
会議終了後、俺達は軽く話し合った。
「ステージの制約は、俺達にはあまり関係ないな」
「ああ。曲調を考慮しても、大がかりな舞台演出は必要ないだろう。それに運営から何人か借りれば、『アウアリイ』のイスをあらかじめ置いておけるしな」
「でも、15分ももらえてるんだから、一曲だけはもったいないよね~」
「ちょっといいかしら」
俺達が話しているところに割って入る声が聞こえた。声のする方を見ると、小学生かと間違える背にツインテールが印象的な女の子だ。だが雲鳥学園の制服を着ているから高校生、それもアイドル部の新入生だから俺達と同じ高一だろう。
「……何か用?」
「あんた達、Awaiauluだっけ? Glorious Tailの先輩方に気に入られているみたいだけど、あたしは認めないわ」
「いきなり何なんだ、君は」
「あたしは雲鳥学園1年の、小日向つむぎ。今年アイドル部に入部した一年生の中で一番期待されてる大型新人よ」
小日向と名乗った彼女は、俺達をキッと睨みつけた。
「言っておくけど、今年の新入生で一番強いのはこのあたしよ。このステージ、あたしのワンマンショーにしてやるんだから。あんた達はネットの世界じゃちやほやされてるみたいだけど、あたしが吠え面書かせてやるんだから」
そう言うと、小日向さんは立ち去ってしまった。
「なあ、あれって……宣戦布告って事でいいのか?」
「そうなんじゃないかな~。あの子、随分自信満々だったみたいだし~」
「面白くなってきたな。蒼司、菜月、すぐステージを考えよう。俺達絶対に、負けられないぞ!」
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