覇者との会合

「俺達の動画、かなり注目されているみたいだな」

 

「うん~。まさかこんなに再生回数が伸びるなんて思わなかったな~」

 

 学校に昼休み。俺達が話題にしているのは、以前投稿したAwaiauluの動画の反響についてだ。すでに再生回数は5万回を超え、チャンネル登録者数も千人を超えている。

 投稿したてでこの成績は上々……どころか、以上と言ってもいい伸び具合だ。

 

「コメントも概ね好感触だな」

 

 動画に付いたコメントの例を挙げると、まず俺達の最初の楽曲『アウアリイ』では、『上から目線の歌詞なのに不思議と説得力を感じる』や『曲も踊りもとってもカッコいい!』、『ゆるやかな曲調と攻撃的な歌詞のギャップが印象に残る』といった絶賛のコメントが非常に多かった。

 次に投稿した俺の秘策、女声キーのまま歌う『THE IDOL CLUB』では、『男の子からから女の子の声が聞こえるのが面白い』『この曲をここまで歌いこなせるなんて、本当にすごい!』と、こちらも高評価だった。

 

「みんな、初投稿でここまで反響が大きいのは順調な……いや、予想外に好調な状況だ。この勢いのまま、次の曲を――」

 

「失礼。こちらにAwaiauluのメンバーがいるって聞いたんだけど」

 

 俺が決意表明を言おうとした矢先、教室に俺達を探している人が現れた。『Awaiauluのメンバー』と言っているから、俺達のネット活動に関することを目的に訪れたのだろう。

 

「ああ、それなら俺達――」

 

 その瞬間、俺の言葉が詰まった。なにせ現れたのは、今日本で最も有名なアイドル部員、去年のアイドル甲子園の覇者、Glorious Tailの三人だったのだから!

 

「ああ、あなた達が今話題のAwaiauluね? 初めまして。Glorious Tailリーダーの筑波 朱音です」

 

「同じくGlorious Tailメンバーの……松島 藍花です……」

 

「千歳 月華だよー。よろしくねー!」


 な、なんか全員キャラが濃いな!Glorious Tailのリーダーってもっとクールな感じかと思っていたら、筑波先輩はすごく元気でフレンドリーだ。松島先輩は無口で一番クールな印象。千歳先輩はマイペースにゆるーくしている……。

 

「あ、あの……去年のアイドル甲子園、見てました……」

 

「あら、ありがとう。楽しんでくれた?」

 

 ま、まずい……。憧れの人が近くにいて話しかけてくれてうれしいんだけど、緊張で上手く言葉が出ない……。


「えっと、俺達は最近ネットで活動を初めて、今少しずつ伸びている所です……。まだPV数も少ないですが……、あの、よろしければ握手を……!」

 

 しどろもどろながらも、俺はなんとか話すことが出来た。そして、憧れの筑波先輩に手を差し出す。すると、筑波先輩は少し考えた後に、俺の手を握り返してくれた。

 

「ありがとう。これからの活躍、期待してるわ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「でも……」

 

「え?」

 

 握手を終えた筑波先輩は、少し意地悪な笑みを浮かべた。


「今日来たのはファンサービスをするためじゃないわ。あなた達の動画見たんだけど、確かな決意を感じた。そして歌もダンスも表現力も、全てがハイレベルだった」

 

「そう……女子でないのがもったいないくらいに……」

 

「キミ達が女の子だったら、あたし達と一緒に活躍できたのになー」

 

 残念そうに言う先輩方。正直俺達のパフォーマンスをここまで評価してくれたのはうれしいが、アイドル甲子園に出場できない事実を改めて突きつけられて歯噛みした。

 

「でもね、私たちはあなた達Awaiauluを応援しようと思っているの。そしてあなた達の夢を叶える手伝いをさせて欲しい」

 

「え……?」


 筑波先輩から、俺達を応援するという言葉が出た。その言葉の意味が分からず、俺達は一瞬言葉を失った。

 

「朝日君、だっけ。去年の私たちのアイドル甲子園見てたのよね?だったら、去年はどういう結果だったか覚えているわよね?」

 

「は、はい。他のライバルを寄せ付けない、圧倒的な優勝でした……」

 

「そう、圧倒的だった。だからこそ、私達は物足りなかった」

 

「物足りない……?」

 

「ええ。圧倒的な差がありすぎた。レベルが違いすぎた。私達と同じレベルに達してくれるライバルがいなかった」

 

 その言葉に、俺達は唖然としてしまった。てっきり圧勝とも言える状態で優勝して、『自分達と同じくらい強いアイドルは日本にはいない』とでも言ってしまうものだと思っていたが、そうではないらしい。

 

「私達……もっとライバル達と鎬を削り合いたかった……」

 

「でも、そんな子がいなかったんだよねー。だからあたし達的には結構不満というかー」

 

「そんなとき、あなた達の動画に出会った。あなた達Awaiauluには、私達に匹敵する才能がある。私と同じレベルまで、上り詰めて来れる素質があると。そして私達の地位を脅かすような、良きライバルになれると!」

 

 そこまで言って、筑波先輩が俺の手を取った。憧れの人に触られてドキドキしている俺の耳元で、彼女は優しくささやいた。

 

「あなた達Awaiauluが、私達Glorious Tailと同じくらい輝くアイドルになるために、手助けさせて欲しいの」

 

 瞬間、俺の脳裏に電撃が走った。俺がGlorious Tailと戦える……? アイドル甲子園を目指す者として、これ以上無い栄誉だ。

 

「でも……俺達には、まだ実績がありません。まだ動画投稿を始めたばかりの状況で……」

 

「そうね。特に今のAwaiauluに足らないのはステージに上がった回数。アイドル部にとって配信活動は大事だけれど、ステージに上がってライブをやるのも重要よ。でも、今のAwaiauluの状況ではステージに上がる機会は絶望的と言って良いほど無いわ」

 

 だから、と筑波先輩は続けた。

 

「私達がAwaiauluのステージを用意するわ。そして、それが成功すればあなた達の勢いは一気に加速する」

 

「ステージを用意……!?」

 

「ええ。でも、そのステージが成功するかはあなたたち次第よ。私達の期待に応えられるよう、努力することね」

 

「は、はい!」

 

「いい返事ね。期待しているわ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 今日はお話しできて楽しかった、とGlorious Tailの三人は去って行こうとした。……が、筑波先輩が思い出したように振り返った。

 

「そうそう。近日中にGlorious Tailで動画投稿するんだけど、その時を楽しみにしててね」

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