エピローグ

 雨は一段と激しくなり、嵐めいてきた。

 路面に打ち付ける雨粒が派手な音とともに弾けている。


 後悔をなくしたい一心で、再びここへやって来た。

 今度は彼が来るまで待とう。

 それで真夏の盛りのような日照りの日にも関わらず、長い傘も厚手のブーツも身に着けて家を出てきた。

 喉に入り込んでくる湿り気で思い出す。


(私は渇いていたんだ)


 彼の瞳と声に、まっすぐで素直な性格を感じ取ってから、それに気づいた。

 あの少しばかりシャイで、裏表のない温もりのある彼の笑顔を信じたい。

 心から信じられる人。それが彼だったら、ただ彼と肩を並べているだけで、どれだけ心を強く持てるだろう。


 闇に沈んだ通りから人影が消えた。

 5分としないうちに激しい滝のような土砂降りの雨となり、アスファルトの上が川のように大量の水であふれかえった。

 傘は結局大して役に立っていない。すっかり濡れてしまった。あのときと同じで、身体が急激に冷えてくる。


 自分が信じている通りの人だったら、いつか必ず現れる。それだけは、自分の中ではっきりとしていた。

 半面、それでも、もう彼が来なくてもいい。そういう思いも心の底にはある。


 待てる限り待って彼が現れなければ、それで自分の中でこのことは、もう終わりにしよう。このタイムトラベルに申し込んだときから、そう決めていた。

 信じきれたなら、また私には別の明日が見つかるはず。

 今日ここで昨日までの渇きを癒すことができても、あるいはできなくても、昨日までとは違う新しい明日があるはずだった。


 やはりあの日のように、少し離れたところで雷が鳴り、地響きがする。

 もう濡れているのだか、泣いているのだか分からなくなってくる。


 それで意識が幾分遠のいたころだろうか。声がした。

 自分を呼んでいる。

 その声の方へ振り向くと、同じく本降りの雨の中にいる彼が手を振った。

 あの屈託のない笑顔で立っていた。


 


(了)

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ハローアゲイン 悠真 @ST-ROCK

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