…
ネットで当院の面会可能時間帯を確認すると、まだぎりぎり間に合いそうだった。
すぐさま身支度して電車に飛び乗り、その北区の病院に向かった。
先ほどより人波の増した池袋駅構内を歩き、JR埼京線へ乗り換えた。
病院までは最寄りのF駅から徒歩で数分のようだった。そのホームに降り立つとまだ昼間の熱気が残る街並みが見えた。
院内の総合受付で面会希望を伝えた。
クリップボードとボールペンを差し出され、面会者名簿に患者名と自分の氏名、患者との関係を書き込んだ。
カウンター内の受付係に声を掛け、ボードを返す。
受け取るなり彼女が一瞬動きを止め、それから無言でじっと悠真を見た。
彼女は奥にいる別の係に顔を寄せ耳打ちすると、それを受けてその係が立ち上がり、背面のドアを開けて事務所と思しき部屋に入っていった。
昏睡状態の若い女性の病室に入ろうとする、親族ではない男性に警戒しているのかもしれない。
このようなご時世ではやむを得ないというところだろうか。
「患者さんの担当看護師が、お部屋まで案内いたします。その者が参るまで、こちらでお待ちください」
受付係は、ようやく口を開いて事務的に淡々というと、待合席の方に手を向けた。
その後、ほどなくして現れた中年の女性看護師に案内されてエレベータで一緒に4階まで昇った。
エレベータを降り立つと、看護師は正面のナースステーションに立ち寄った。
案内係の看護師がカウンター内の人間に声を掛けて二、三やり取りをしてから、悠真を病室が並ぶ通路へ連れていく。
十数メートル歩いた先のとある扉の前で彼女は立ち止まった。
プレートには部屋番号だけが印字されており、患者氏名の書かれたものは見当たらない。
彼女はノックしてから、そっと扉を開け、悠真を中に入れた。
冷房が程良く利いていた。
祈里のいる部屋の空気に触れ、胸が一段と高鳴る。
部屋の真ん中には白く大きなベッドがあり、小柄な女性が仰向けに眠っていた。それが祈里だった。
自発呼吸をしているらしく、呼吸器の類はついていない。彼女の身体につながっているのは点滴のみのようだった。
当の祈里は顔色が冴えず、まったく無表情に見える。
看護師は黙って、背後の扉の近くに立った。
仰向けに眠っている祈里に、悠真は掛ける言葉も見つからない。視線を彼女の顔と身体に掛けられたブランケットの上に走らせるだけで、他にどうしようもなく、彼はたまらず息を漏らす。
突然、扉をノックする固い音がした。
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