14

 遠回りするようにして移動していた悠真は、日の傾き始めた夕方前になって、ようやく自分のアパートにたどり着いた。

 一息入れたところで着信に気づき、スマホを取り出す。

 紗良からの電話だった。


『早瀬君さ、さっきのお詫びと言っちゃ何だけど……』

「ん?」

『祈里の入院先を教えたげるよ』

「知っていたんだ?」


 思わず息を飲んだ。

 祈里の人懐っこい笑顔が瞼の裏をよぎる。


(会いたい)

 悠真はとにかく、純粋にそう思った。

 彼女は、東京都北区にある大病院の名を口にした。

 祈里が事故で昏睡状態に陥り、依頼していた役目が果たせなくなった絡みで深井が知り得たらしい。

 それで彼は、友人である祈里の見舞いに行くのを紗良に勧めるつもりで病院名を明かしたようだった。

 3、4日前に深井から早退の許可を得て、祈里の病室を訪れたのだと紗良は言った。


『ただ、行っても無駄かな。……余計なお世話かも知れないけどね』

 悠真は押し黙った。

『がっかりはさせたくないから、あえて言っとく。祈里、ずっと眠っているだけで、全く何も反応しないから』

「いいんだ。会ってくるよ。宮野の顔が見られたら、それでいい」

『そう?』

「教えてくれて、ありがとう」

『あ! それとね』

 電話が切れると思っていた悠真は、スマホを持ち直した。


「なに?」

『早瀬君、SNSの祈里にメッセージ送ったことあるでしょ?』

 一通きり送った、一言も返信のなかったあれのことだろう。

 祈里は、紗良にそのことで何か言っていたのかもしれない。

 今の自分に対する彼女の気持ちが推し量れそうだが。


「あるけど、それが?」

『そう、あの祈里のアカウント、実はさ、あたしだったの』

「え……?」

 さすがに悠真は、二の句が継げなかった。


『ほらさ、祈里、LINEとかもやんないじゃん。でも、安村君に連絡つけるにはSNSのコミュニティがいい口実になるからさ』

「……つまりだな、あのメッセージは、紗良が読んでいたのか」

『そそ。だから、いきなりあんなこと言われても、さっぱり事情分かんないから、返しようがなくてさ』


 わだかまりは解けたが、結局祈里の気持ちがわからないままだった。

 祈里に無視された(と思い込んでいた)状況よりは希望が持てると言えるのだろうか。


 言葉が出てこない。

 彼は、心の揺れにまかせて静かに息をついた。


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