「まじか」

 そう言いながら、20代前半とおぼしき、白のノースリーブにデニムのショートパンツ姿の金髪の女が出てきた。

 尻目に車内を見ながら、手を上げてドアのそばに立った。


「マサリン、何かやらかしたの?」

 そのキンキンした女の声に反応するように、もう一人出てくる。今度は七分丈のベージュ色のチノパンだった。

 男らの拳銃を構える手に力が入り、銃身が揺れる。

 榊原、砂川の指先がトリガーにかかった。 


 男が両手を上げて出てきた。彼女と同じ年頃の茶髪の小柄な男だった。右耳のピアスが光る。

 何かグズグズ言いながら出てきたが、自分に一斉に向けられた十個以上の銃口に気づくと、目をむき、思わず首をすくめた。

「……え? あ? ちょっ? えええ?」


 村木がその男のひ弱そうな肩を空いた左手で掴み押しのけた。そのまま後部席に拳銃を向けながら車内をのぞくなり叫んだ。

「いません! 奴は車内にいません!」


 紗良は、目を大きく見開いた。何度も瞬きを繰り返す。

 手にしたスマホの画面には、まさに今も真ん真ん中に赤い点が灯っているのだが。

 言葉が出てこない。


 ライフルの銃口が下がると、他の男らも拳銃を持った腕を下ろした。

 やがて車内に上半身を突っ込んでいた村木の声がした。

「主任! 助手席の下からスマートフォンが!」


 それで紗良は悟った。

 安村は、何らかの方法で自分のスマホがGPS発信機になっていることに気づき、乗車したタクシーにそれを置き去りにして紗良らを陽動したのだった。


 つい先ほどまで気が張り詰めていた男らは一気に意気消沈した。

 すっかり虚ろになった彼らの目が、おもむろに紗良に集まる。

 その時、スマホがバイブした。電話の着信。悠真からだった。


『話がある』

「早瀬君、今はちょっと……」

『樫見、俺と安村をはめただろ?』

「な、何のこと?」


 それから悠真は、先ほどカフェ・マドリッドで起きたことに加え安村から聞いたことを、ほとんどそのままに話した。

 彼女は、今度は耳を疑うばかりだった。


『樫見は知っていたのか?』

「そんなの聞いたことなんかないよ。あくまであたしは、新型ウィルスの封じ込めのために動いているのよ」

『樫見がグルではないなら、あの深井って男に騙されていたのでは? 安村はそう言っていた』

「課長があたしを?」


 矢崎が不審な顔で紗良を覗き見ていた。

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