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 紗良から作戦失敗の報を受けた深井は、とあるマンションの一室のアジトであるセーフハウス内で、島田と肩を並べてパソコンの画面に見入っていた。


 街頭の防犯カメラがとらえた安村のタクシーの乗車する様子を繰り返し流している。

「奴はこのあと、すぐに降車したのだ」

 深井は、眉間に深いしわを刻むと、ギリギリと歯噛みした。

「しかし、安村のヤツはどうやって携帯に埋め込まれたGPSに気づいたのだ?」

 島田は皆目見当がつかないのか、黙り込み唸るばかりだった。


 そのとき、柔らかい電子音が鳴った。玄関の呼び鈴である。

 壁際の男性職員の一人が、対応すべく玄関へ向かった。


「誰だ?」

 深井が不審がったが、居合わせた誰にも心当たりはないようだった。

 ここは敵対組織やマスコミ等から身を隠すセーフハウスなのであり、団体名の看板等は一切なく、表札も個人名でしかも偽名だった。

 よって外部の人間が、自分たちが何者であるかを知った上で訪ねてくることは、まずないのである。


 玄関で訪問者とやり取りをしていた職員が部屋に戻ってきた。

 十枚ほどうず高く積まれた平たい箱を、幾分よろよろとしながら両手で抱えている。

 ソファで休んでいた大川が、それらが全部ピザの箱だと分かると短く口笛を吹いた。

 深井は彼の横顔をにらみつけると、職員に目を向け訊いた。「なんだ、それは?」


 職員は、こともなげに答えた。

「ピザです」

「分かっておる! これからピザパーティーでも始めようかっていうのか?」


 深井は両手を広げると、苛立ちとない交ぜになった笑みを浮かべた。


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