…
車内の男たちは、黙ってうなづいた。
『ラジャー』
通信先の後方の車からも返答が届く。
紗良は、まっすぐに前を走るタクシーを見据えた。
「まもなくE門町交差点通過」
ハンドルを握る矢崎がそう口にした。彼の装着したヘッドセットマイクを通して榊原らにもその声が届いている。
右の追い越し車線にいる紗良らの車は、悠々と走る左車線のタクシーの隣へ並んでいく。
タクシーの内部は後部席を覆ったフィルムのせいで何も見えない。
紗良は、まもなく来る激しい横Gに備えて、ドアを両手でつかむ。
くぐもった車載スピーカー越しの男の声が、後続の三台が全てE門町交差点を越えたことを伝えた。
そして沈黙の時。
無機質なタイヤ音だけがしている。そこへ、ギアチェンジと共にエンジン音が回転数を上げて被さった。景色の流れが一気に加速する。
サイドミラーがタクシーを映し出した、その瞬間、車体が急激に左へ寄る。同時に急制動がかかり、紗良の身体は前のめりになった。
(!)
反射的に頭を伏せた彼女の悲鳴は、声にならなかった。
後方から、急ブレーキでタイヤの甲高く鳴く音がする。
車が完全に停止すると、身体がシートの背凭れへ一気に引き戻され、背中をしたたかに打った。
同時に後部席のドアが左右に開けられ、男らが飛び出していく。
紗良もドアを押し開け、降り立った。パンプスがアスファルトで軽く固い音を立てる。
後続の組織の車からもブラックスーツの男たちが、各々に拳銃を手にして走って集まって来た。
すぐそばでバイク音が複数した。榊原らの到着である。
男らが銃口を停車したタクシーに集め、無言で取り囲んだ。照り返す太陽で、彼らの顔が汗で光っている。
榊田と砂川がガンケースから取り出したライフル銃を両手で構え、タクシーの後部ドア付近までやって来て振り返り紗良に頷いて見せると、男らの輪がほどけ広がった。
サブリーダーの村木がタクシーの助手席に近寄り、窓ガラスをノックした。運転手に後部席のドアを開けるよう促すと、自動で開いた。
拳銃を握り直した彼は、大声を上げた。
「いいか! 妙なことは考えるな! お前は包囲されている!」
紗良は息を飲んだ。
村木が続けていった。
「ゆっくりと出てこい! 手を上げて、ゆっくりと、だ!」
後部席から出てきたのは、サンダル履きの真っ白な細く長い脚だった。
紗良の脇にいた矢崎が耳打ちした。
「……主任、女です」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます