…
終点の池袋駅に着き、さらに手堅く事を運ぶため例の地下鉄を避け、山手線に乗り換え新宿駅を目指した。
新宿を経由することで迂回する算段である。
(今度こそ会える……)
電車の刻むリズムに気分が高ぶってくる。
悠真は電車の扉に凭れながら、自然と緩まる頬を感じていた。
「本日はご乗車、誠にありがとうございます。まもなく新宿駅に到着いたします。どなた様もお忘れ物なきよう、お手回り品を今一度……」
ターミナル駅向け特有の丁寧な車内アナウンスは、決まり文句のように乗り継ぎ案内を、すらすらと言ってのける。
もうこれまで幾度となくこれを耳にしてきたが、今日ばかりは彼により一層の緊張感を与えた。
あと一回の乗り換えで祈里と会う約束の場所にたどり着けること。
前回見舞われた列車遅延と大雨の障害を回避して確実に会える手筈が整っていて、念願の再会が着実に迫っている感触を得たからだろう。
勝利目前。
あと1アウトを取れば終わる野球の試合のようである。守備についている野手と同じ、そわそわと浮足立った心持ちと言ってもいいかもしれない。
悠真はドアの前に立つと、滑り込んでくるプラットホームの景色を見据えた。
そうして無事、新宿駅から乗り継いだ地下鉄で待ち合わせ場所最寄りのB橋駅に到着した。
待ち合わせたDビルディングの前まで歩く。
約束の時間までまだ15分あった。
まばらな人影があるだけで、さすがにまだ祈里の姿はない。
どの方向から彼女が現れるか、悠真は辺りを見回しながら予想を立てる。
ジャストの電車に乗ってやって来るなら、自分がやってきたのと同じ地下鉄の1A出口から出てくるだろう。
もし自分より先に駅に着いているなら、どこかで時間をつぶしているはず。強い日差しや熱気を避けて駅の構内、あるいは近くのコンビニ等建物の中にいるに違いない。
背中ににじみ出る汗で、シャツがやたらと張りつく。
それでも、祈里が姿を見せた瞬間、その不快感はそれ以上の爽快感に取って代わられるのである。
この暑さも、いつまでも胸に残る熱い思いへと変わるだろう。
うだるような猛暑に足取りの重い通行人の様子とは反対に、悠真の心は軽やかだった。
自分の方へ向かって歩いてくる通行人の中の一人である祈里を見落とすまいと、悠真は右へ左へしきりに目を走らせた。
やがて、約束していた時刻、12時半となる。
悠真は、背筋を正した。彼女の目に入る最初の自分の姿がふと意識に上ったのである。
その姿勢のまま、3分くらい経過しただろうか。彼は一度、スマホを取り出した。正しい今の時刻と、彼女からメールが届いていないかをチェックする。
その時だった。
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