再び待合室に戻されたあと、やはり看護師風の女性にタイムトラベルマシーンのある部屋へと案内された。

 明るいダウンライトで照らされた長い廊下の両脇に、重く頑丈そうな扉が約10メートルおきにあり、部屋によっては鈍い振動音や電子ドラムのような打撃音がしている。

 悠真は、遊園地のアトラクションのようなものを想像した。


 やがて先を歩いていた女性が、半身だけ振り返って、ある扉のノブに手を掛けた。「こちらです」


 中に入ると、薄暗い部屋に巨大な機械が設置してある。

 その脇でコントロールパネルを前にした技師とおぼしき男性が陽気に頭を下げた。

 ワイヤレスのヘッドセットマイク越しに彼の声が聞こえてくる。


「ようこそ、タイムトラベルへ!」


 案内されるまま機械の横に回ると、その中に一人だけ入られそうな狭いスペースがあった。

 シートというよりはベッドのように、ほぼ水平方向に置かれたマットレスが目に入る。

 時折、機械が電子音を発していた。

 

 現在から過去の世界には一切物品を持ち込めないという。

 また、Tシャツとスウェットパンツ以外は身に着けていない状態で機械に乗り込むよう指示された。

 パーティションの向こう側に鍵のかかるロッカーがあった。そこに私物を詰めて、着替えを済ませる。


 とある決まったタイミングで強制的に現在に呼び戻されるので、後悔の種を解消すべく、なるべく有意義に過ごすよう説明があった。

 他、技師がサイトにも書いてあった項目の再確認を兼ねて、軽快な口調でアナウンスした。

 一旦強制的に眠らされ目覚めると、そこはもう過去の世界になっているという。


 やがて打撃音が始まる。大きな電子音が時折音割れ気味に鳴っている。

 腰と腕がセーフティベルトで固定され、ヘッドフォンの形状をした防音用のイヤーマッフルが頭に装着された。

 打撃音の間隔がだんだんと短くなり、機械の回転数が上がってきたのが分かる。

 やがてブザーが鳴り、薄暗くついていた電灯も完全に消えた。


 轟音に紛れて、スピーカー越しに技師のくぐもった声がした。

「ハヴァ・ナイス・トリップ! グッド・ラ~ック♪」


 途端に、どこからかガスの激しく噴出する音がした。

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