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いよいよタイムトラベル当日の朝。
渋谷から地下鉄に乗り換えて数駅、そこから徒歩5分のところにある雑居ビル3階に、Tトラベルサービス社があった。
悠真の予約時刻は、午前11時。その5分前には受付窓口の前にいた。
カウンターは、飛行機や汽船の搭乗手続きをするそれというより、病院のようだった。
時間通りに窓口脇の「オリエンテーションルーム」と称された小部屋に案内される。
長机が部屋の真ん中にあり、その向こうに白衣をまとった二人の人間がいた。
顎髭を蓄えた小太りの老人男性からパイプ椅子に掛けるよう促される。
その椅子の右の脇に衝立があり、その向こうに大型の機械があり、ファンモーターの微かな音がした。
男性の隣には水色のナース服姿の若い女性がいて、悠真が手に持っているクリアケースに手を伸ばした。
それには受付でもらった書類が入っていた。
彼女はノートパソコンに向き直って、書類を眺めながら何やら打ち込むと、しばらく手を止めていた。
どうやら悠真の先日送ったデータを検索しているようだった。
やがて画面を見つめたまま、彼女が「お名前をどうぞ」と悠真に問いかけてきた。
悠真がフルネームで名乗ると今度は男性の方がにこやかに頷いた。
「えー私が、このモニタリングサービスを監修している
タイムトラベルで戻りたい日付の再確認になる。
悠真は「XX年7月26日です」と答えた。
園城寺は、女性から回された書類に目を走らせる。
「間違いないでしょうな」
「間違いないです」
きっぱりとした悠真の物言いに、園城寺は満足そうに首を縦にゆっくり大きく振った。
「えー、早瀬君、とお呼びしてもいいかな。私は、堅苦しいのはどうも苦手でしてな」
「え、ええ」
悠真も特に異存はなかった。相手が倍以上の年配者であることと、旅行会社というよりクリニックのような施設内の雰囲気のせいかもしれない。
「君がフォーマットに書いた内容と重複する点もあるとは重々承知しておるのだが、あえていくつかの質問をさせてもらいたい。……いいかね?」
園城寺が悠真を目で捉えるとこう付け足した。「いやあ、プライバシーに関わる質問になるけども、必ずしも全てに答えなくても、それは一向に構わんよ」
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