第2話

この国には、到底手の内では数えられないほどの「山」がある。

我々【山狩り】は、その「山」全てを登頂する。そう、山を狩り尽くす。それ故に、山狩りなのである。


第二話 桜島


「鹿児島?」

「あぁ、緊急でな。怪獣が暴走を始めそうとのことなんだ。」

「暴走…鹿児島といえば、桜島ですか?」

「あぁ、そうだ。」

「桜島は…噴火の回数が明らかに多い印象を覚えます。その…一概に怪獣の暴走とは言えないのでは?」

「…その逆なんだ。3ヶ月間、1度も噴火しなかった。付近の人曰く、なにか…燻っているような状態に感じられたそうだ。」

「燻った?」

「あぁ、それこそ、軽い地響きを感じると。」

「…日程は?」

「今すぐだ」

__

___

「ヘリコプターなんて初めて乗りました!」

プロペラの音にかき消されないような声量で話す。

今すぐと言われたものの、まさか山狩り用のヘリがあったとは…

今まで遠出には公共交通機関を使っていたこちらの気持ちも考えて欲しいものだ。

「…見えてきたぞ、あれが桜島だ。」

そこに見えたものは、何の変哲もない平穏な火山のようで、遠目で見ても何も恐ろしさは覚えなかった。

__

___

ヘリを降りた瞬間、身体が恐怖した。常に地響きを感じ、耳を澄ますとゴポゴポといったマグマの音が聞こえる。

「緊急と言われましたが…むしろなぜ、こうなってしまう前に呼ばなかったのでしょう?」

「私にはわからん。」

ヘリの運転手にそう問いかけるも、そりゃそうだろうという返事のみが返ってきた。

「さて…これを旗で呼び起こせと?」

「そうみたいだな」

「…私一人でよかったんですか?これほんとに」

緊急だったとはいえ、もう少し人を集めてからの方が現実的だったのではないかと感じた。

「…やるしかないかぁ」

毎度の如く、チンケなデザインの旗を手に持ち、エンジンを締め、構え、翔ぶ。

(刺した瞬間方向転換…刺した瞬間方向転換…)

跳びながらイメトレを続けるも、上手くいくビジョンがあまり鮮明には見えない。

300m…200m…100…50…30…10…

「刺した!瞬間方向…転…換!」

もう既に目覚め始めているであろう怪獣に怖気付く暇もなく、寝起きの衝撃が届かない場所までエンジンをふかす。

「そろそろ…範囲外かな…」

その瞬間、後ろから…いや、つま先から大量の熱気が届いた。

「っあ…つ!?」

靴が焼ける、服が焼ける、喉が焼ける、視界が、街が。

どうにか受け身を取り、幸い軽症で済んだ。

ただし、死を覚悟した。

「あれを一人でやれってのかよ…」

飛び出した怪獣は、さながら某特撮映画のような、50m以上あるであろう巨体。それがマグマを引き連れているのだ。

「あんなもん太刀も溶けちまうだろ!」

手も足も出ず、とにかく距離取る。逃げ惑う姿は、一般市民と何ら変わりなかっただろう。

ひとしきり走ったところで、覚悟を決めた。

「…武器がねぇ一般市民と比べちゃあ、耐えれる時間はちげぇよな…」

呟きながら太刀を抜く。言い聞かせる。貴様は一般市民ではないと。言い聞かせる。死なないと。

「すぅ……ぅあああ!!!!!」

雄叫びを上げ、エンジンをふかす。とにかくふかす。上着を燃えカスにしながら突き進む。マグマを引き連れた巨体へと。腹の中に、並々ならぬ火力を燻らせている巨体へと。

一発。確かに入った。溶けてはいない。

…その瞬間、怪獣がその場で倒れる。

「…あ?」

拍子抜けの怪獣に、困惑のみが浮かぶ。

何もせず怪獣を見つめていると、段々と溶けていく。

「…セルフ火葬だな」

なんてふざけたことを言えるくらいには精神が回復した。

ただ、なんだ。楽に倒せるに越したことはないのだが、手応えがない。いつ起き上がってまた街を壊してしまっても不思議でない。ただし目の前の怪獣は溶けているのだ。おそらく倒したのだろう。

その時、突然無線が入る。

「…はい」

「ザザッ…討伐完了だ。とても…ザザッ…助かったよ。報酬はザザッ…ほど用意している。撤収してくれて構わない。」

報酬の額は聞けず、無線が切れてしまった。

「…わざわざそのために聞き返すのはがめついしな」

私はそのままヘリを呼び戻し、本部へと帰還する。

「よくぞ戻ってきた。これが報酬だ。」

「有難く頂戴いたします。」

その日の仕事を終え、テレビを流しながら報酬を確認する。

「1…2…3…4……10万か…まぁ大金だけどさ…死ななかったとはいえ一応マグマに突っ込んだんだからもう少し褒めて欲しいよなぁ…」

山狩りは、少し人遣いの荒いところがある。


「本日、3ヶ月ぶりに桜島が噴火しました。降灰量は…」


第二話 終

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