第125話

そう心に決めて、人混みを上手く避けながら前に進み続ける。




でも、人が多すぎてなのかなかなか出口が見えてこない。はぁ…、精神的にも体力的にも疲れた…。ちょっと休憩したい。




そう思い、人の流れから外れて歩道の端っこに避難した。




疲れた足を休ませようと近くにあったガードレールに寄りかかって体重をかけながら、ぼーっと目の前の景色を眺める。




この時間に繁華街に来たことなかったけど、いつもこんなに沢山人がいるんだなぁ。…次からは、頼まれても絶対に拒否してやろう。




さてと。そろそろ視線が痛いから、早く帰ろう。さっきからグサグサと視線が身体に突き刺さっている。




そんな視線に耐えられなくなって人の流れに戻ろうした時、ふと歩道から外れた場所にある路地裏が目に入った。




あれ、あの路地裏…、見覚えがある。確か、前にお兄ちゃんと来た時に、家までの近道だと言って入った気がする。




立ち止まり、人気がなさそうなその路地裏と、人が溢れ返っている歩道を見比べる。




…よし、この路地裏から帰ろう。近道だし、あの人混みの中に戻るより、こっちからの方が早く家に着きそう。それに人の出入りはなさそうだし、お兄ちゃんと通った時も誰とも会わなかったし、大丈夫だよね。





そんな軽い気持ちで、路地裏の方へと方向転換する。





前は昼間だったから明るかったけど、この時間は結構暗いんだなぁ。少しの恐怖が芽生えるけど、人混みの中を帰るよりはましだと何とか自分を奮い立たせ、路地裏へと足を踏み入れてしまった。









この時の私は、あの時言われたお兄ちゃんの”言葉”を、すっかり忘れていた。









――「いいか。あの路地裏には、絶対1人では入るなよ。分かったな?」









それを思い出した時にはもう、既に手遅れだった――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る