第106話

「俺も、外の空気が吸いたかっただけだ。ここの屋上、気に入ってんだ。」






空を見上げながらそういう彼に、「そうなんですか…。」と呟いた。






それきりまたお互い沈黙になるけど、不思議と嫌な感じはしなくて逆に落ち着くような感覚がした。





距離は離れているけれど、震える気配もないし、何より普通に喋れている。






…男の子なのに、本当に不思議な感じだなぁ。






シーンと静まり返った中で、赤く染まりかけた空を見て、あ、と気付いた。






そろそろ病室に帰らないと、お兄ちゃんが来てしまうかもしれない。今日は真於くんも来るって言ってたし…。






『じゃあ…、私はもう戻りますね。』






パッと立ち上がって、ドアの方に向かいながら彼に小さくペコッと頭を下げる。






そうすれば、






「…明日、」






そんな言葉が聞こえて、「?」と首を傾げて振り返る。






「明日も、来るか?」






どうしてそう聞いてきたかは分からないけれど、心做しか真剣な表情の彼を見て、






『き、来ます。』






思わず、そう返していた。






そんな自分にびっくりして、「そ、それでは!」と慌てながら屋上を後にした私は、







「ふっ…、そうか。」







少し口角を上げながら、どこか嬉しそうにそう呟いた彼のことなんて、知る由もなかった。

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