第106話
「俺も、外の空気が吸いたかっただけだ。ここの屋上、気に入ってんだ。」
空を見上げながらそういう彼に、「そうなんですか…。」と呟いた。
それきりまたお互い沈黙になるけど、不思議と嫌な感じはしなくて逆に落ち着くような感覚がした。
距離は離れているけれど、震える気配もないし、何より普通に喋れている。
…男の子なのに、本当に不思議な感じだなぁ。
シーンと静まり返った中で、赤く染まりかけた空を見て、あ、と気付いた。
そろそろ病室に帰らないと、お兄ちゃんが来てしまうかもしれない。今日は真於くんも来るって言ってたし…。
『じゃあ…、私はもう戻りますね。』
パッと立ち上がって、ドアの方に向かいながら彼に小さくペコッと頭を下げる。
そうすれば、
「…明日、」
そんな言葉が聞こえて、「?」と首を傾げて振り返る。
「明日も、来るか?」
どうしてそう聞いてきたかは分からないけれど、心做しか真剣な表情の彼を見て、
『き、来ます。』
思わず、そう返していた。
そんな自分にびっくりして、「そ、それでは!」と慌てながら屋上を後にした私は、
「ふっ…、そうか。」
少し口角を上げながら、どこか嬉しそうにそう呟いた彼のことなんて、知る由もなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます