第92話

小さく呟いたはずの私の声は、シーンと静まり返った空間にやけに響いて、そのまま消えた。






「分からない、か。…まぁ、そのうち気付く時が来るだろ。」






『え?』






「いや、何でもねぇよ。」






最後に真於くんが何かを呟いた気がして聞き返したけど、それ以上は教えてくれなくて上手くはぐらかされる。






「まぁとりあえずココ、今日はもう家に帰って休め。」





わざとらしく話を変えた真於くんに、これ以上聞いても無駄か…とすぐに諦めたけど、その提案には賛成出来ない。






『え、私は大丈夫だよ!このまま残りの授業受ける…、』






「大和の命令だ。」






『う…、分かった…。』






私の言葉を遮ってそう続ける真於くんに、お兄ちゃんには逆らえないなぁ、と渋々頷いた。






…本当に、お兄ちゃんの心配性には困ったものだ。








それから、「家まで送るから、ココは教室に荷物取りに行ってこい。俺は車回してくる。」と言ってくれた真於くんと一旦別れ、1人教室に戻った私は、入った途端に物凄い勢いで誰かに抱き着かれた。







”誰か”、なんて、私にこんなことをする人は1人しかいないけれど。






「心音ー!!心配したのよ!?教室に来たら心音いなくて、クラスの男共に聞いたら3人の女達にどこかに連れて行かれたって聞いて、校内中探し回ってたのよ!?途中で担任に会って事情聞いたから、仕方なく教室に戻って心音が帰ってくるの待ってたけど…。」






いつも緩いけど綺麗に巻かれた髪は乱れ、少し化粧も崩れている依里ちゃんは、きっと必死で走り回って私を探してくれたんだろう。





そんな依里ちゃんに、嬉しさと申し訳なさがどんどんと込み上げてくる。






『依里ちゃん、ごめんね。ありがとう…。』






眉を下げながら謝罪とお礼を伝えれば、






「うっ…、心音が無事ならいいのよ!」






何故か一瞬胸を抑えた依里ちゃんだったけど、すぐにまた抱き締めてくれた。






嬉しくて、控えめに依里ちゃんの背中に腕を回して抱き締め返せば、さらに強い力で締め付けられて苦しかった。

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