第93話

私が苦しそうな声を出したらすぐに離してくれた依里ちゃんは、「そういえば、」と何かを思い出したような声を上げた。






「心音って担任と知り合いなの?心音のこと親しそうにココ、って呼んでたからさ、あれ?って思ってたのよ。」






不思議そうに首を傾げている依里ちゃんに、私もそういえば言ってなかったかも、と思い出す。






教室とか依里ちゃんの前では真於くんと話すことなかったし、わざわざ話すことでもないからとすっかり忘れていた。






『担任の真於くんはね、お兄ちゃんの友達なの。昔からよく家に遊びに来たりして可愛がってもらってたから。』






「なるほどね…。」






納得した様子で頷く依里ちゃんに、「言ってなくてごめんね。」と謝れば、「いいの、言うタイミングなかったんでしょ?」と言われて、やっぱり鋭いな、と思った。






そしてふと時計を見れば、10分ほど経っていて、真於くんを待たせてたことを思い出す。







『あっ、私もう行かなきゃ!』






「え、どこに行くの!?」







いきなり慌てだす私を見て訳が分からないという顔をする依里ちゃん。






『今日はもう私早退するの。真於くんが家まで送ってくれるから荷物だけ取りに行ってこいって言われてたから。』






そう言えば、






「あ、心音、発作起きて保健室で休んでるって担任が言ってたわね!もう…、昔から持病があるって何で言ってくれなかったの?」






心配そうに見てくる依里ちゃんに、真於くん嘘ついてくれたんだ…、と心の中で感謝するけど、まだ本当のことを言えない罪悪感で胸が痛む。






『最近は治まってたから、言わなくても大丈夫かなって思ったの。…ごめんね。』







色々な気持ちを込めて、最後に”ごめんね”と呟いた。

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