第88話

…っ、この声…、牧谷…さん?






何で牧谷さんが…、と疑問が浮かぶけど今は何も考えられず、とりあえず発作を鎮めようと牧谷さんの言葉に従う。






深く吸って…、深く吐く…。スー…ハー…。






数回ゆっくりと深呼吸を続ければ、不思議と息苦しさが治まっていくのを感じる。






牧谷さんは、その間もずっと私を優しく抱き締めて背中をさすってくれていた。







…それに、安心したのはどうしてだろう。







今まではお兄ちゃんと真於くんにしか安心感を感じなかったのに、どうして最近出会ったばかりの男の人に…。







「落ち着いたか?」







息苦しさも治まり、震えも完全に止まった頃に再び牧谷さんの声が耳元から聞こえた。






吐息が耳にかかり、思わずかぁっと顔に熱が集まる。






そして冷静になった頭が、抱き締められているというこの状況をようやく理解して、余計に顔が熱くなった。







『落ち着き…ました。ありがとうございます…。』







赤くなっているであろう顔を見られたくなくて、そのまま抱き締められている状態で何とかそう答える。







…どうしよう。何故か牧谷さんは離れる気配がないし、私から離れようにもガッチリと腕が背中に回されていて動けない。








どうしたらいいのかと私が頭を悩ませていた時、









「…これは一体、どういう状況だ?」









聞き慣れた声が、耳に入ってきた。

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