第87話

な、に…。






何が起こったか分からず、しばらく思考が停止する。







ぎゅっ、と圧迫感を感じて、ようやく誰かに抱き締められていることに気が付いた。







でも明らかに”男の人”で、そのことを脳が認識した途端に激しく身体が震え出す。







『は…っ、離して…ください…っ。』







誰かも分からないけれど、精一杯の力を振り絞って身体を押し返す。






お願いだから…っ、私から離れて…。






そんな願いも虚しく、少し離れていた距離はぐっ、と強い力で再び縮められてしまった。





何で。そんな思いが頭を支配する。










そんな時。








「…ゆっくり深呼吸だ。深く吸って、深く吐け。」







優しさを帯びた低い声が、耳元で聞こえた。

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