第53話

冬悟side






「なぁ冬悟、あの子が大和さんの妹なんだろ?頑なに否定してたけどよー。」





あの子がこの部屋を出てから誰も喋らず静まり返っていた中、やけに明るい声でそう切り出す聖(こうき)。





『…あぁ。それは間違いねぇ。』





あの子が、大和さんの妹なのは間違いない。





2週間かけて、ようやく見つけ出した大和さんの妹、”桐咲心音”。






見つけたきっかけは、ほんの些細な偶然だった。





ちょうど、溜まり場に行こうと1人で旧校舎の廊下を歩いていた時だ。










――――――――――――――――――――








いつものように廊下にいる奴等から挨拶され、その度に適当に返しながら進んでいれば、







「…なぁ、俺らのクラスに”心音”って名前の女いるだろ?」






そんな会話が、不思議と鮮明に耳に入ってきた。






…心音?






いつもならどうでもいいと聞き流すはずだが、何故かその会話が気になり、思わず足を止めて声が聞こえてきた方に目を向けた。





そこには、廊下の端にしゃがみ込みながら円になって話している3人の男達がいた。





急に廊下の真ん中で立ち止まった俺を周りの奴等は不思議そうに見ているが、構わずその会話に聞き耳を立てた。





そんな俺に気付くはずもない奴等は、会話を続ける。





「あぁー、いるいる。あのすっげぇ地味な女だろ?それがどうしたんだよ。」





「いや、その女も一応”ココ”って呼べるよな、って思ってよ。」





「言われてみれば確かに…。けどよ、あんなに地味なんだぜ?牧谷さんがそんな女探すはずねぇって!」





「まぁそうだよな!絶対違ぇな!」







そこまで話を聞いたところで、






『おい。』






一言、そう声を掛けた。

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